『小さな政府』と『大きな政府』
オバマ政権の改革の目玉は、「医療保険改革」でした。医療保険の未加入者を減らして、最低限のセフティーネットを張るというものです。アメリカの医療システムは、雇用主を通じた民間医療保険と政府負担の医療保険で構成されています。現在、全人口の約15%は保険に加入していません。アメリカの全人口が約3億人ですので、約4700万人も保険に加入できていない人がいることになります。しかし、各種報道を見ていると、医療保険改革を含め、政府介入による増税は、簡単には受け入れられそうにありません。改めて、私はアメリカを「自由と自己責任の国」だと思いました。
学生の頃、一応、私も経済学を勉強していましたので、簡単に『小さな政府』と『大きな政府』を下記にご説明します。
『小さな政府』とは、市場に占める政府の規模を可能な限り小さくしようとする思想です。政府の市場への介入をできるだけ小さくして、自由競争の下、個人の「自己責任を重視」する市場原理主義の政府の役割規模のことです。一方、『大きな政府』は、その逆です。国家が社会保障・医療・福祉・教育などの政策に積極的に介入して、市場の調整を行う政府の役割規模のことです。学生の頃、日本は『小さな政府』の考えを段階的に取り入れていると教わりました。ソ連が解体して、冷戦が終了した頃です。
日本の政府は、現政権も前政権も、明確にビジョンを示していません。ビジョンとまで言わなくても、「進むべき方向性」です。もっと言えば、「『大きな政府』を目指すのか?『小さな政府』を目指すのか?」です。昨年の12月30日に、政府は「新成長戦略(基本方針)~輝きのある日本へ~」を打ち出しました。民主党はこれをビジョンだと言っています。しかし、内容は従来からの官僚作成の踏襲のような印象を受けます。年末年始は、報道機関は、既に用意された記事を特集にするので、あまり、この件に触れていないと思います。
私は、個人的には、前政権は『小さな政府』の方向にあり、現政権は『大きな政府』の方向にあると思います。福祉国家と言わないまでも、市場の競争原理の調整を政府が図り、格差を小さくし、一定の福祉を充実させることを念頭においているのですから、欧州型に近い『大きな政府』だと思います。しかし、政府は「コンクリートから人へ」と言って、『大きな政府』とは言いません。今、日本は『大きな政府』でも『小さな政府』でもないのだと思います。敢えて言うなら、『無駄使いを許す政府』かもしれません。国民も、アメリカのように「自由と自己責任」をベースにした競争社会を望んではいないと思います。また、北欧のような国民に過度の税負担と一定の制限を課す福祉国家も、望んでいると思えません。そうなると、若しかしたら、「欧州型の福祉国家」なのかもしれません。
「今の政府には、ビジョンが無い。」ということが言われるように、「うちの会社には、ビジョンがない。」ということをよく社員の声として、出てきます。今後、企業は目指すべき方向性を打ち出し、社員はその中で自分の枠割と存在意義、自分が自立的に何をすべきかを認識し、「自己責任」の下で行動することが一層強く求められてくるはずです。労働法の解雇制限も緩和されてくるかもしれません。
『大きな政府』を望まず、『小さな政府』を支持するアメリカ。「自由」を掲げるアメリカの裏打ちされた「自己責任」ある国民意識の高さには、改めて、日本との意識の違いを感じさせます。
作成日:2010年1月25日 屋根裏の労務士