コラム Column

「思考の心棒」

経済原論という学問があります。経済の原理に関して、考察する学問です。私は、定期的に、経済学の本を読み込んでいます。特に、ミクロ・マクロの経済原論の分野です。休日に、体調が良く、頭が切れているときに、経済学の本を本棚から取り出し、机に向かって読み込みだします。

私は、大学生の時、経済学を専攻していました。当時、経済学の中で、特に経済原論は、授業を受けていてもさっぱり理解ができませんでした。経済原論の内容を理解するために個別に、教授のところに、何度も質問に行っていました。教科書を読んでいても、授業を受けていても、さっぱり理解ができなかったからです。教授からは、下記のことを言われました。

  • 「経済学は、ひとつひとつの基本的な理論が、ノーベル賞にもなるような学問。原理原則自体が難しく、教えている教授の方も、深い理解までがすべてわかり、分かっているわけではありません。学生の方は、深い理解に近づく、自らの努力が必要です。」

当時、私は「わかる」や「理解」するとは、漠然と、次のように思っていました。

  • 「わかるということ」や「理解するということ」とは、言語という形式知で知り得ることができること。

つまり、何か、意味することや意図することは言語という言葉の力で、知り得ることができると思っていたのです。

分からないことは、ひとつひとつの論点を確認して、教授から分かり易い言葉で、説明してもらえば、理解して、わかるようになると、安易に思っていたのです。もっとも、当時は、わからないことも、わからないようなレベルだったと思います。ところが、経済学と出会ってから、次のことに気が付きました。

  • 「言葉だけでは、理解が出来ない世界があること。」

経済学は、単に教科書に記述された文字を、見ているだけでは、簡単に頭に入ってきません。頭をフル回転させて、読み込むという行為が必要になります。一見、単純そうに見える経済モデルのグラフを理解するためには、経済学の地頭をつくり、内容を読み込むということが求められるのです。

経済原論は、1ページ読み込み、理解するだけでも、数時間かかるようなことのオンパレード。恥ずかしながら、学生の頃は、深い理解に届くまで経済原論と向き合うことはなく、挫折していました。試験を乗り切り、単位を取るという程度にしか、理解は出来ていません。浅い理解と暗記によって、乗り切っただけです。

しかし、経済原論と出会って、世の中には、言語だけでは、理解することができない、難しい世界があることは、理解することが出来ました。難解な経済原論と向かいあうことにより、言語だけではわからないことがあることを身にしみてわかったのです。

社会人になってから、プロとしての自分の専門性を持ちます。ビジネスには、経済学と同様に、難しいことがあることに日々、直面します。

  • 「言葉だけでは、理解が出来ない世界があること」です。

若手の頃は、よく、次のことを会社に対して、言っていました。

  • 「マニュアルを作成して欲しい。」

当時は、仕事というのは、何か言語による形式知でわかり、理解して、身につけることができるという大きな勘違いをしていたのです。

言葉では、教えられない、このわかるという理解が求められるような難しいことが仕事では、たくさんあることに気が付いたとき、経済学で学んだような地頭が出来ている方が有効的であることを、痛感したのです。

実践が大切なことは、説明するまでもありません。しかし、それと同様に、次のことを社会に出てから痛感。

  • 基礎学力や教育の重要性

経済原論なんて、社会に出てから、直接的には何の役にもたちません。ビジネスの話題にすらならないでしょう。実務性は、皆無。

しかし、何か自分の「思考の心棒」に、なっているような気がするのです。言語では理解できない難しいことに対して、応用的に、対処する思考の骨になっているような気がします。

この「思考の心棒」をつくるというのは経験を積み、専門性を極めていくほど大切なことだと感じます。

クライアントの皆様の大多数の方は私と一緒に、半年以上の長期プロジェクトの打合せに参加して頂きました。就業規則の作成、給与制度の改定、人事評価制度の策定などなど。労務の膨大な知識を学び、知識や情報を身につけたのは、間違いありません。

しかし、私が、真に目的としているのは、労務のプロジェクトを通じて、幹部の方々に、次のことを身につけて頂くことです。

  • 労務に関する「思考の心棒」。

細かい知識は、忘れてしまうことはあっても「思考の心棒」は、風化することは無いからです。「思考の心棒」さえ、一度出来てしまえば、資料を読み返すだけで、すぐに理解はよみがえり、新しく入ってくる知識への吸収が、極めて良くなるのです。一度、わかって、理解が出来たことは、簡単には風化しないのです。

何か問題が起きても、私からアドバイスを受ければ大抵の場合、社内で対応が出来る力が身にきます。何より、危険な臭いを察知するような鼻が利くようになるのです。

人事制度の策定とは、何か規程や資料を作成することではありません。運用できる体制をつくることです。そのためには、幹部の方々が労務の「思考の心棒」をつくることなのです。

実際に、何か問題が起きたり、各種制度を運用していく中で、就業規則や規程が整備されていることは、当然に大切。しかし、それ以上に、労務の「思考の心棒」が出来ている、幹部がいることが重要なのです。

労務の「思考の心棒」という基礎がなかったら、現場で応用的に対処することは出来ないでしょう。また、そんな幹部がいること自体が、トラブルを起こさせる隙を与えないのです。

「思考の心棒」は、教育によってつくられると思います。基礎学力や教育が大切なことを、社会に出てから、わかり、その必要性を理解したような気がします。

弊社のクライアントが、社内教育や各種労務のプロジェクトに力を入れるのは、そんな基礎学力や教育の大切さに気がついているからなのでしょう。

作成日:2013年7月8日 屋根裏の労務士

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