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「うつ病の労災認定の脅威!」

平成20年9月15日にリーマンショックが起きました。あれから、4年が経過しようとしています。

当時、日本企業は、大規模なリストラを断行。私も、連日のように、大規模なリストラのコンサルティングをしていました。その後、さらに、勝ち組、負け組がはっきりとなり、格差は広がりました。

その副作用のように、うつ病が急増。私傷病の休職に伴う傷病手当金は、健康保険組合等の財源悪化の大きな要因。もちろん、各人の保険料の高騰にもつながっています。

最近では、うつ病を患った原因は、企業にあるとして、傷病手当金ではなく、労災申請を希望してくる方も出てきています。このことは、企業の人事担当者を悩ます、大きな問題となっています。

厚生労働省では、平成23年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」をつくりました。これは、仕事上のストレスが関係した精神障害についての労災請求が急増し、迅速な対応が求められたことにあります。

最近は、業務上のいわゆるケガによる労災認定も以前より、時間がかかることが増えています。これまで、1カ月程度で認定されていたものが3ヶ月近くかかる場合もあります。

添付する調査書などや事実確認についても以前よりも厳格になっている印象があります。労働基準監督署の労災課は、パンク状態の忙しさ。この忙しさの要因のひとつに「精神障害に伴う認定」が増えたことがあります。「精神障害の認定」に関して、膨大な調査作業が伴うのです。

通常の申請で、労災認定を受けなかった場合でも、次に、審査官に対して、不支給不服の審査請求で争い、そこで不支給の結果となった場合でも、更に、労働保険審査会に対して、再審査請求をしてくるのです。それでも納得していない場合、裁判です。

上記を想像してみて下さい。行政機関は、労災の認定事実をめぐり、膨大な労力と時間を割かれることになるのです。このことは、行政だけではありません。企業も膨大な労力と時間を割かれることは容易に想像ができるでしょう。

「精神障害による労災認定」は、平成8年に起きた、「電通事件」。過労のためうつ病などの精神疾患となり更に自殺にまで追いつめられたことを争った裁判です。

高裁の判決は破棄され和解しましたが、1億6800万円もの高額な和解金での決着となりました。

その後、日本のあちこちで、過労死に伴う労災認定の判決が行われました。全国で一定数の判例が出たことにより、国は、平成11年に「精神疾患の認定基準」を通達で出しました。

この認定基準を運用していく中で、新しく基準としたものが昨年12月に出された認定基準です。内容については、従前のものを引き継ぐものですが、迅速化した判断が出来るように、これまで曖昧だった箇所を明確にして、まとめられています。

認定のための要件は大きく下記の3つです。

  1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  2. 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に業務に強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

上記でポイントになるのは、2の「発病前おおむね6か月の間に業務に強い心理的負荷」です。この心理的負荷を捉えたとき。今後、益々、下記の二つについては、注意が必要でしょう。

  • 長時間労働

  • ハラスメント

長時間労働については、1か月におおむね160時間を超えていれば、おそらく、一発で、労災認定になるでしょう。恒常的に80時間を超えているような場合も他の要件と併せて、労災認定になる可能性が出てきます。

裁量労働制を導入している企業でも80時間は、ひとつの上限として特に注意して運用していく必要があります。

また、重篤なハラスメントがあった場合などは、労災認定となりやすい傾向があります。ハラスメントに関することは、通常、被害者と加害者では意見が異なるものです。日常の労務の指導として、早めにきちんと一つ一つ対応していかないと、事実と異なるようなことが、事実となってしまうリスクもあり得るのです。

多くのケースでは、これまでの判例に基づき作成された36の基準項目が慎重に吟味され、監督署が総合的に判断することになります。労災の申請をした場合、この36の基準をめぐり、会社には、様々な確認が求められてくるのです。

在職中の社員からだけでなく、退職したはずの社員から、後になってから、精神疾患を患った原因は、会社側にあるとして、労災の申請を受けるリスクすらあるのです。

通常、労災の申請は、会社を通じて行うものです。しかし、会社の印鑑が無くても、社員が直接監督署に申請を申し立てしていくことは、可能なのです。

このようなケースでは、双方の言い分が異なることが多いので監督署は、膨大な確認資料の提出を求めてきます。労災認定をめぐり、裁判に近いような泥沼の状態。更に、認定をされた場合、民事における損害賠償請求などを受けるリスクは極めて高い。

会社は、一連の対応をめぐり、相当の労力と時間、費用が発生することになります。リーマンショック後、歪な労使関係が社会を取り巻いています。何か法律の力で、ねじ込むような法律改正も増えています。

私は、法改正やその動きを念頭に置きながらも、まずは一番大切なことは下記のことだと痛感しています。

  • 「会社と働く人との信頼関係をつくる!」

  • 上記を再認識しながら、クライアントに各種注意を喚起していくこと。問題が大きくならないうちに、早めに問題の種を潰し、未然に問題を防いでいく、社労士の使命を日々感じております。

  • 事態が深刻化する前に、極力紛争の種を潰し、日々、信頼関係を構築していく意識を高めていくことなのです。

  • 労働紛争の処理機関は増えていますが、私の相談範囲を超えた場合、事態はすでに泥沼の状態。お互いが代理人を立て、顔の見えない状態で双方が主張を繰り返し、書面で誹謗中傷しあう状態となり、何らかの金銭解決しか、もはや、道は残されていないからです。

作成日:2012年9月3日 屋根裏の労務士

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