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「労働基準監督官の増員」

電通の新入社員の過労自殺問題。まだまだ波紋が広がっています。事態が終息するような状況になりません。政府は、今回の事件を踏まえて、次の方針を固めました。
  • 労働基準監督官を増員させる方針

従業員に長時間労働をさせている企業について、監督や取り締まりを強化する必要があると判断したためです。残業時間を減らすための制度整備と並行して、現場の体制を拡充することで、働き方改革の実効性を高める狙いがあるようです。

労働基準監督官は、現在、全国321の労基署に、3,241人が配置されています。労働者1万人当たりの日本の労働基準監督官の数は0.53人。ドイツが、1.89人、イギリスが0.93人です。欧州の先進国と比べて、半分程度の人数なのです。

労働法の取り締まりを強化しようにも、「マンパワーが足りずに対応が追いついていない」というのが現状なのです。昨今、何か事あるたびに、「公務員の人員削減」を求められる情勢の中で、労働基準監督官の増員については、社会は寛容な様です。

労働基準監督官の採用試験は、公務員試験の中でも難関試験の一つと言われています。大卒以上の受験資格が必要で、合格率は10%前後です。

一次試験の筆記試験に加えて、二次試験での面接試験があり、コミュニケーション・スキルや適性も問われるそうです。更に、採用試験に合格したからと言って、そのまま職につけるかというと、決してそうではありません。

試験の上位合格者から採用されるシステムとなっているため、労働基準監督官の職につくには、試験に良い成績で合格することが必要となってくるのです。

小生の妹が、労基署に勤務していたこともあり、労基署の内情については、社労士になる前から、小生は、多少分かっていたこともあります。妹がいた労基署では、監督官は、周囲から「先生」と呼ばれていて、法律の実務スキルだけではなく、人格者の方が多かったと話していました。ちなみに、妹は当然に監督官ではありません。ただの事務員です。

通常、労基署に相談に行っても、監督官ではなく非正規社員の相談員が対応することが多いです。激務で多忙な監督官は、それなりのレベルの案件でなければ、対応してくれません。

簡単な相談の場合、事務員が対応することも多いそうです。妹も、事務手続きの簡単な相談は、自分も対応していたと話していました。どこの業界でも、レベルに応じて、そのレベルの担当者が対応しているものです。

監督官は、転勤も多くかなりの激務です。長時間労働を取り締まる立場の監督官自身が、かなりの長時間労働をしているのは有名な話です。

労働基準監督官を、一人前に育てるまでには、10年ぐらいの期間がかかると言われています。一人監督官を育てるまでには、時間も税金もかかっているのです。日本は、監督官が他の先進国に比べて人数が少ないという一面がある一方で、個人的には、監督官の質やレベルは、粒ぞろいで、かなり高いと感じています。

今回、政府は労働基準監督官を増員する方針を発表しました。どのくらいのペースで増員させるかまでは、発表されていませんが、仮に増員させるのであれば、次のような予測は容易に出来ると思います。

  • 今後、企業は労基署の臨検が増えるということ

人数を増やせば、『質の悪い監督官』が増えるはずです。『質の悪い監督官』とは、『融通が利かない監督官』です。

小生は、これまで、数々の臨検を潜り抜けてきました。臨検を受けた場合、企業に厳しい是正勧告を受ける展開になること。概して、若手の監督官にあたってしまった場合が多いものです。机上の法律対応を、何の融通も利かずに真面目に張り切って対応されることが多いのです。

概して、ベテランの監督官は、企業の実情を暗黙の空気感の中で了解して、厳しさの中でも、「手心ある対応」をして頂けることが多いのです。先月も大阪地区の臨検の立ち合いで、監督官から「手心ある対応」をして頂けました。

  • 臨検対応の能力とは、監督官の悪意を駆り立てずに、
    監督官から「手心ある対応」を引き出していき、
    問題を終息させ、まとめていく能力でもあります。

今回の労働基準監督官の増員方針を受けて、ブラック企業の取り締りについては、是非とも強化して頂きたいです。一方、今後、『質の悪い監督官』が増えることにより、やっかいな展開になる臨検。増えてくることも覚悟しています。

弊社のクライアントは、残業代の未払いリスクの対応や労務の要となる箇所については、一定限の対応が出来ており、コンプライアンス体制が整っています。そのため、通常の臨検程度であれば、小生が、わざわざ、同行したり、窓口にならなくても、小生のアドバイスだけで、乗り切ることが出来ています。

小生が作成した就業規則を臨検の際に持参した際に、監督官から、かなり丁寧につくり込んであると誉められたという報告も、度々頂いています。それでも、今後は、小生も臨検に同席すること。増えてくる展開になることも覚悟しています。

今回、起きた電通の新入社員の過労自殺問題。そのインパクトは凄まじく、日本社会に、まだまだ、波紋を広げているようです。

作成日:2016年11月21日 屋根裏の労務士

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