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「凄みのある顔」

安倍首相とプーチン大統領が、モスクワのクレムリンで会談しました。共同記者会見で、プーチン大統領が、未来を見添えた友好的な対応を見せたのが印象的でした。今回の日ロ首脳会談を日本側は、「信頼醸成サミット」と位置付けました。安倍首相は、ロシア訪問の目的について次の3つと述べました。
  1. 「日ロ関係の将来的可能性を示すこと」
  2. 「平和条約交渉、北方領土交渉の再スタート」
  3. 「プーチン大統領との個人的信頼関係の構築」

今回の会談が成功した背景には、森 喜朗元首相の地ならしがあったことは言うまでもありません。森 喜朗元首相は、自分の父親同様に、イルクーツクの墓地に、分骨することを表明しています。父親と同じく、日露の友好的な交流に骨を埋めて、尽力する覚悟のようです。

現在、日本が持つロシアとのパイプ。森 喜朗元首相だけでしょう。森 喜朗元首相は、75歳。森 喜朗元首相が生きているうちに、他の人にもパイプを繋げておかなければ北方領土は、それこそ、帰ってくる見込みも無くなってしまいます。そうなれば、ロシアとの平和条約は、永久に結べません。

私は、3つの目的の中で、とりわけ、下記のことが重要だと感じています。

  • 「プーチン大統領との個人的信頼関係の構築」

プーチン大統領のような大物大統領が次に、いつ出てくるかは、わからないからです。

小者のリーダーの時は、重要なことは、何も出来ません。内輪の汚職で、小競り合いばかりなのです。セクシャナリズムの官僚制の腐敗の中で、任期中の自分の利権と選挙のことばかり。外交をややこしくして、国際情勢を混乱させるだけです。出来るのは、せいぜい、予算をつけたり、削ったりする程度でしょう。

私は、プーチン大統領の政治的な手腕をほとんど知りません。政治的な功績、人格や人間性、プライベート、スキャンダルなど。各種経歴など、ほとんど知りません。知っているのは、新聞やテレビニュースで、報道されている程度です。しかし、プーチン大統領が、「ただ者ではない」ことは察します。理由は、下記です。

  • 「凄みのある顔」をしていること。

現在、世界各国の大統領や首相の中で、プーチン大統領が、最も、「凄みのある顔」に、私には、見えるのです。見た目の雰囲気では、オバマ大統領より、むしろ、プーチン大統領の方が、貫録あるように、私には映ります。

まるで、死線を潜りぬけてきたかのような容貌。経歴だけを積んだ、単なるエリートの顔には、見えないのです。ましてや、ケチな目先の利益しか、見えていない顔には見えません。

「顔」というのは、心である内面を映し出す鏡。その人の心と行動が、顔をつくるのです。ましてや、「国の顔」となれば、その国を推し量る、ものさしにもなるものです。「代表者の顔」とは、それほど重要なものだと思うのです。

ロシアという世界最大面積があり、人口1億4千万人を超える国家。高い文化に裏打ちされた土壌から、出てきた「代表者の顔」なのでしょう。あれだけの顔をしていれば、国民はもちろん、他の国から、そうそう、舐められるものではありません。GDPや軍事力という数字だけで、その国の強さは推し量れるものではないと思います。

現在、日本はロシアと平和条約の締結が出来ていません。今回の日ロ首脳会談は、両国の様々な思惑があると言われています。台頭する中国などの世界情勢。シベリア開発、ロシアからのエネルギー確保の件などなど。

外交ですので、様々な思惑があるのは当然です。私は、各種の思惑とは別に、未来を見て、生きるのに、純粋に、ロシアとの平和条約を願っています。ロシアの人々と仲良くやっていくことを願っています。

日本が、戦後、旧ソ連から受けた、おぞましい歴史的事実の数々。わかっているとは、とても言えませんが、知識としては、知ってはいます。

日ソ中立条約の一方的な破棄、北方領土の侵攻、シベリア抑留、強制労働。散々、火事場泥棒のようなことをされた挙句。50万人以上の人が強制連行され、10万人以上の死者。しかも、死体は、投げ捨てられるような扱われ方だったと言われています。それなのに、東京裁判では、一方的に、戦勝国である旧ソ連に、裁かれる立場。到底納得など、できるはずもありません。

  • それでも、北方領土の問題を
    何らかの形で前進させて、
    平和条約を締結して欲しい。

ソ連という体制での国家は、既に破たんして、消滅しています。これからの未来をつくり、今を生きるロシアの人達に、罪はありません。『親の恨みを子に晴らす。』ということは、武士道精神で醸成された、日本人の道徳心から外れるところです。

ロシアとは、歴史的な悲痛な経緯がありますが、日本人は、ロシアの文化に、高い敬意を払っています。そのことは、ロシア人もよく分かっています。

文学では、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフ、ゴーリキーなどなど。世界中の国々で、不朽の名作として、研究の対象となるような作家の数々。ロシア文学は、事実を突きつけるような表現で、人間の業のような本質に迫るものばかりです。

音楽では、チャイコフスキー、コルサコフ、ラフマニノフ、ムソルグスキーなどなど。数多くの大作曲家を輩出していまます。

こんな大天才を、次から次に、バンバン輩出しているのです。GDPのような明確な数字では表せませんが、文化的な素養の高い国柄と言えるでしょう。相当な基礎力を有している民族のはずです。

同様に、文化的な大天才を、数多く輩出しているのが、日本です。日本文化も世界中で敬愛されて、世界に、たくさんの親日家がいます。柔道家のプーチン大統領も、親日家のひとり。日本文化は、ロシア文化同様に、多くの国で、研究対象にもなっています。

高い文化的な土壌のある、日本とロシアは、お互いに、尊敬しあい、交流していく期待が持てると思うのです。日本とロシアとの強みと良さを掛け合せた、新しい価値観が生まれる期待があります。

経済活動という、結果としての結びつきのベースには、次のことが極めて大切なのです。

  • 「精神的に、相手の長所や強みを理解し、
    尊敬しあう、心の結びつき」

人間関係とは、「尊敬しあう心の結びつき」が無ければ、どこかで、無理が出てくると思うのです。

同様に、私は、クライアントの皆様を尊敬しています。皆様の長所や強みを理解しています。この気持ちが無ければ、長期のお付き合いは出来ません。

中国やアメリカという大国へのけん制という枠を超えて、日本とロシアは、純粋に、お互いを尊敬しあいながら、交流するパートナーになれると思うのです。日本とロシアが友好的な関係を形成できれば新しい世界情勢の幕開けとも言えます。もちろん、実現には、課題も時間も膨大に要しますが。

プーチン大統領の政治決断がないままに、北方領土問題が解決することはありません。共同会見で、安倍首相が次のように述べました。

  • 「プーチン大統領との間で今回、平和条約交渉を含めて、
    幅広い問題について胸襟を開いて、じっくり話し合い、
    個人的信頼関係が生まれたと実感している。」

そのときに、隣の席に座っていた、「凄みのある顔」をしたプーチン大統領が、深くうなずいたのが何よりも印象的でした。ロシアとの平和に向けた交流は、私たちの世代で、築かれていきます。

どの国の人に対しても、相手の文化と価値を認め、相手の良さや強みを知り、敬意を払うこと。国際化の中で、何より大切なことであり、そこに、外交の取組みやグローバル化のヒントがあるような気がするのです。

作成日:2013年5月20日 屋根裏の労務士

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