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「意識して、身に着けていくもの」

先週、開業した会社が、上手く軌道にのってきて、就業規則を作成したいという、知り合いとお会いました。彼は、零細企業の経営者。従業員が5人になり、これから、あと2人ぐらい雇う予定だそうです。そろそろ、労務の必要性を感じてきたらしく、就業規則を作成していきたいという相談。

彼とは、7年ぐらい前に知り合い、一時期、仲良くなった方です。久しぶりの再開。労務の相談ということで、私のことを、思い出して頂いたことに、連絡を頂いてから、ずっと、嬉しくなっていました。お酒を交わしながら、久しぶりに、ゆっくりと、話がしたいと思い、落ち着いた雰囲気のお店に入りました。

しかし、話をしている中で、終始、愕然。言葉を失っている自分。ポツンと、そこにいました。理由は、彼が、がらっと、変わっていたからです。最初に、事務所で顔を会わせたとき。手には、ブランドの高級時計。派手なシャツと高級スーツに、身を包んでいました。

話題は様々でしたが、会話は、終始、下記のことです。

  • 『カネ!』

アベノミクスで、株で儲かった話。最近、高級外車に乗り換えた話。ビジネス順調で、売り上げが上がり、儲かっている話などなど。話題の結末のほとんどが、すべてカネに関することなのです。更に、会話中に、次のことをずっと言っているのです。

  • 『世の中、カネ。』
    『カネのために、やっている。』
    『綺麗ごとを言っても、成功者とは、そのことを分かっている人。』

話題を変えたかったのですが、何の話をしていても、すぐに、カネの話になるのです。

  • 『カネ、カネ、カネ、カネ、カネ!』

その姿は、まるで、守銭奴。さらに、当の本人も守銭奴で、何が悪いという勢い。正直、彼が余りにも横柄になり、自分が世界の中心。終始、自分の一方的な都合に基づく、威張ったもの言い。非常識なことを、空気を吸うかのように、次から次へと、自然に発していたので、正直、私は、ドン引きしてしまいました。

何か、彼の会社のために、知恵を出して、良い制度をつくってあげたいという気持ち。湧いてこないのです。就業規則作成という、私の庭のような仕事。私にとって、おいしい仕事。それでも、心通わせながら、会社の未来を考えて、課題を共有して、協力してつくってあげたいという気持ち。それが湧いてこないのです。

彼が実際に労務トラブルで、困ったときに、心通わせながら、一緒に協力して、解決にあたること。とても出来ないと思ったのです。それどころか、彼と一緒にいると、私の方も、何か影響を受けてしまい、悪いものに、取り憑かれてしまうような気がしてきたのです。

  • 心を通わせること。
    危険な気がしてきたのです。

人間、少し成功して、何か偉くなったり、出世すると、これほど、謙虚さが、無くなり、独り善がりになるものかと、ただ、見ているだけでした。

彼は、自分が、いかに優秀で、周囲が劣っているかを次から次へと、一方的に、話していました。何か、気持ちが高ぶり、興奮しながら、自分が凄いということを言わんとばかり。そして、すべての話の結末は、カネのことです。大きく成長して、自信に満ち溢れているというより、下記のようでした。

  • 嫌な心が宿ってしまい、
    何かに、取り憑かれてしまった。

心が乱れてしまい、嫌な心が宿ってしまうと、悪い思想が出来上がり、周囲に対する、立ち振る舞いにも表れて、発言や態度に、出てきてしまうのでしょう。一方的に、自己満足的な話をするだけ。他の人の意見に、耳を傾ける姿勢。それが無いのです。

自分が、世界の中心。自分の考えしか見えていない。社長なので、自分の会社組織とその周辺世界の中で、日常的に、誰からも注意もされず。終始、自分が中心で、まるで、王様気分。

周囲から、気をつかわれて、チヤホヤされ、毎日が、回っているというのも事実なのでしょう。カネと地位という蜜に、群がる蟻がいるのも事実。また、そんな成功が、あるのも事実でしょう。

何か、彼を反面教師のように、客観的に、人間観察をしている自分。

しかし、自分だって、彼のことは言えません。私は、彼のことを、反面教師とは、決して、言えません。20代の後半から、30代にかけての自分。横柄で、謙虚さの無い自分。いたと思います。

20代の後半にもなると、仕事も一通り覚えてきて、ビジネスマンが目指す、一定のステージに到達。周囲の協力や理解を必要せずに、自己完結で、自分の考えるままに、仕事が出来るようになります。むしろ、困っている周囲のサポートをする立場。経験が無い新規の分野でも、過去の経験をベースに、応用的に、対応できる力が、身についてきます。

難易度の高い案件を、次々とこなしていく自分。次々と、ノルマを達成していく自分。会社組織の中で、注目され頭角しだす自分。

変化の激しい時代、日々、マーケットが変わり、対応は高度化。一番、マーケットを熟知してくるのが現場の者。上司も、ほとんど実務的なアドバイスが出来なくなり、ノルマを課して、報告を受け取るだけの状態。

特に、営業会社では、数字をあげていれば、すべてが肯定され、許されるような社風もあります。輝いてキラキラしているというより、何かギラギラしたような雰囲気。いつも、マグロのように、止まることなく動き回り、周囲の対応が遅いと、いつも、イライラばかりしている。そんな自分がいたのです。

営業数字と専門性という鎧を身にまとい、ひとり高ぶり、謙虚さを忘れて、現場の矛盾や問題を、相手の喉元に、突きつけるような横柄な態度。

毎日、終電まで残業しているどころか、連日、会社に泊まったり、深夜タクシーを利用したり。残業時間は、月に200時間超。そんな仕事の合間で、本は手放すことなく、勉強。先輩や上司からは、教わるような素ぶりも見せません。それどころか、会社の現行制度や運用の改善をドンドン、レポート化して、提案して行動していく。

更に、朝は一番に来て、会社の掃除。大掃除などは、誰よりも、はりきって対応。周囲がピンチのときは、率先して対処にあたる。報告・連絡・相談は、迅速かつ細かく行う徹底ぶり。ビジネスの機微を抑えて、注意や文句は一切言わせない。何か言われても、相手に、努力不足の勉強不足とばかり。知識をひけらかし、何倍にもして、言い返す始末。

スイッチはOFFになることはなく、一年中ONの状態。戦闘モードが、途切れることがなく、むしろ、エスカレートする一方。何か、心の険しい人間が、出来てくると思います。

自分の考えや行動が、正しいと信じて、周囲の意見に耳をかさない。周囲からは、持ち上げられて、何か勘違いする自分。自信に満ち溢れているのではありません。心が乱れ、心が険しくなり、周囲が見えなくなっているのです。何より、一番、見えていないのが、そんな恥ずかしい、自分自身の姿。

能力的なことは、実務的に、日々、鍛えられ、逞しくなっていく。一方で、心は、荒れだし、横柄になる。それでいて、何か、使命感のようなものは、人一倍あるので、始末に悪い。

現実の厳しい荒波の中で、揉まれに揉まれて、強くなっていく。多分、精神的にも、日々、頼もしく、強くなっていたと思います。しかし、次のことが、正しい方向性で、養われて、磨かれていないのです。

  • 「強さに伴う、一番大切な心」

何か、謙虚さを忘れている自分。いつも、相手に、一方的に、自分の正義感による論理を主張。次の大切なことを分かっていないのです。

  • 周囲との繋がりや人の存在。

彼と別れた後、もの寂しく、寒々しい気持ちに、襲われている自分がいました。大切な、何かを、失っていくような感覚。夜の街を一人、彼と過ごした時間を忘れるかのように。心を癒すために、茫然と彷徨いながら、夜風に吹かれ、家路を遠回りして、寂しく、歩きながら、帰宅。

経営者は、誰からも、注意をされません。出世して、社会的な地位が、上がれば、上がるほど、周囲から注意やアドバイスを受けなくなり、逆に、周囲から、頭を下げられ、気をつかわれる立場。自分で気が付かなければ・・・。経営者として、会社として、人としての方向性。変わること、無いような気がします。このことは、経営者に限ったことではありませんが。

弊社のクライアントの方の多くは、それなりの企業規模を要する方々。決して零細規模ではありません。しかし、誰も、横柄な雰囲気は出していません。若しかしたら、皆様も、そんな、若気の至りの時代を経て、何かに気が付き、今にあるのでしょうか?

  • 自分を律すること。
    自分に対するガバナンス。
    何より、自分の心の置き所。

それらは、年齢や経験とともに、『自然に身に付くもの』ではなく、努力して、現実と向き合い、自分と向き合い、「意識して、身に着けていくもの」であるような気がしました。自分が横柄な人間では、心を通わせ、向き合い、付き合って頂けないと思うのです。

年齢とともに、『自然に身に付くもの』ではなく、「意識して、身に着けていくもの」があることを戒めて、昨日、私は、誕生日をむかえ、また、ひとつ年を重ねました。

作成日:2013年6月10日 屋根裏の労務士

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