コラム Column

「36協定の運用の見直し」

政府は9月7日に、36協定の運用を見直し、具体的に1カ月の残業時間に上限を設定する検討に入りました。現状では、時間外労働を無制限に課すこと。事実上、許されている状態に近いからです。見直し案では下記が検討されています。
  • 上限を超える残業は原則禁止。
    現在はない罰則規定の新設。

36協定については、3月に安倍首相が、「時間外労働規制のあり方について再検討を行う」と表明。残業時間の上限規制を含めた検討に入ることを明らかにしていました。政府関係者の中には、時間外労働について、下記のような意見を持っている人もいます。

  • 『一律の規制はできない。』
    『職種や仕事の内容に応じた議論が必要』

現実を直視すれば、上記の意見は、ごもっともな意見です。そうなると、結局は、「何らかの例外規定」が、複雑かつ難しく、出来てくる可能性があります。例外規定の設け方次第では、規制強化が骨抜きになることもあり得ます。

色々と制度が複雑になり、難しくなっても、結局は、現状の「36協定の特別条項」と大差がない運用になる可能性があります。

基本的なことですが、36協定の残業時間の上限は、現行でも「1か月45時間」の基準が厚生労働省の告示で定められています。ただし、例外規定があり、「特別の事情」について労使の合意があれば、年間6回までは上限を守らなくてもよいことになっています。

36協定の上限設定について、テレビや新聞のメディアでは次のように報じられています。

  • 現行の制度は、特別条項の例外があるため、
    現状では事実上無制限の時間外労働を課すことができる。

現状でも「1か月45時間」を超える時間外労働は年間半分までしか認められていません。特別条項付協定を結んでいる企業。年間の半分を超える期間についても「1か月45時間」の上限を超えて残業させていることが多いのが、実態なのかもしれません。忙しい人には、一年中忙しいものです。

現状は、36協定の基準を守らなくても罰則はありません。そのため、36協定は形骸外している面もあります。36協定の届け出は、コンプライアンスの初歩の初歩。36協定の届け出は、労働基準監督署の指導が強化され、従業員でも、36協定の存在程度は、知っている方が多くなりました。

労働基準監督署の臨検を受ければ、近年は、必ずと言って良いほど、36協定の届け出に関して、確認を受けます。そのため、一定規模を有する企業であれば、36協定の届け出自体をしていないという企業は滅多にないと思います。

36協定の期間管理や届け出は、意外と手間であり、届け出忘れも多いものです。そのため、弊社のクライアントで中小零細企業については小生の方で、一括管理をさせて頂いています。社会的にみて、36協定の存在はだいぶ周知が進んでいます。これかららは、長時間労働を少なくするための働き方に、課題が変わってきているのでしょう。

安倍首相が議長となる「働き方改革実現会議」でも、長時間労働が、過労死、少子化、男性の育児不参加、介護離職などの原因になっているとして、制度設計が議論されるようです。

この会議でも、「少子化」や「働き方改革」といったキーワードが出ています。残業時間の分を家族で過ごす時間に充てることで、男性にも子育てにコミットできるような社会を作り、少子高齢化への歯止めをして出生率をあげる狙いがあります。

他にも長い残業は、心身ともに疲弊させ鬱病や、時には、自殺願望まで引き起こす原因にもなるとも分析がされています。働きやすい社会をつくるためには「長すぎる残業は廃止すべき」という考えが含まれているようです。

36協定の見直し案では現在、下記が検討されています。

  • 上限を超える残業は原則禁止。
    現在はない罰則規定の新設。

リアリストである小生は、現状、上限45時間の上限をすべての業界に、いきなり撤廃すること。不可能であると考えております。小生の36協定の法改正の予想および提案は下記です。

  • 特別条項の存在を認めたうえで、その上限について、
    過労死ラインと言われる80時間までとする。

  • 現在、大手企業にだけ適用され、中小企業には猶予されている
    60時間を超えた場合の加算割増率について、中小企業にも適用させる。

  • 大手企業については、45時間を超えたら、加算割増率を適用、
    60時間を超えたら、更なる割増率を適用させる。

  • 基準に違反した企業には、罰則を設ける。

  • さらに2回目以降については企業名を公表する。

上記の基準を設けたうえで、社会に対して長時間労働の価値観に関して、意識改革を図りながら、時間内に仕事を仕上げるスキルをつけさせるのです。企業側でも、残業代の単価が上がれば、時間外労働をさせないような労務の対応をしてくるはずです。

何か偉そうに理想論を語っていますが、一方で、残業が無くなれば、残業代も減り、収入も減るわけです。残業をさせなくても、アウトプットの質を高めて、単価をあげて収入を増やす方法を模索する必要も、今後、出てくるわけです。

何らかの新しい基準が出来たとしても、労使が望み、双方に納得感と満足感を得られるような理想的な状態には、まだまだ、時間がかかるとみています。

変わりゆく社会の動向を察知して、今後の法改正の予想をして、早い段階でクライアントに提案していくのは、小生の重要な仕事でもあり、何より楽しみでもあります。そんなことをあれこれ考えてコラムを書いていたら、また、深夜の時間帯になってしまいました。小生自身に残業の概念はありませんが、短時間でアウトプットを出すのは小生自身の課題でもあります。

作成日:2016年9月19日 屋根裏の労務士

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