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「企業に潜む悪しき種!」

ここ数年、事業再編のコンサルティングが増えています。企業再編と言っても、合併、分割、事業譲渡、株式交換、株式移転など様々です。弊社のクライアントでも、何らかの事業再編をした企業が増えてきました。リーマンショック以後、事業再編の典型であるM&Aは、減少していると報じられています。しかし、事業再編は上手くいけば、有効的な経営戦略ですので、今後増加していくでしょう。

企業再編に伴う大幅なリストラも増えています。弊社のクライアントでも、早期退職制度に伴う一定の人員調整はありますが、クライアントが事業譲渡となってしまったケースはありません。私は、皆様のような優良企業の労務の対応をさせて頂けることに、日々、感謝するばかりです。

私は、クライアントの関連会社など以外は、スポットの仕事をすることは基本的にはしていません。労務コンサルティングは、長期的な視点にたち、クライアントのことを個別に理解が出来ていなければ、その企業に応じたアドバイスや対応が出来ないからです。クライアントのことを知らなければ、単なる法律相談になってしまいます。しかし、数社ですが、経営が行き詰まり事業譲渡をすることになり、大規模な整理解雇をすることになった企業があり、対応したことがあります。紹介者からの強い要望があり、経営者の人格も良いので、対応させて頂きました。

顧問先ではありませんので、会社の文化や風土は詳細にわかりません。当たり前かもしれませんが、最初に次の質問をします。

  • 「なぜ、事業譲渡になったのですか?」

通常、次のような返答が多いのです。

  • 「資金ショートになり、事業の継続が出来なくなったから。」

私は、会計税務や財務のプロではありません。一定の知識はありますが、コンサルティングを出来るような力はありません。会計的なプロの鼻はききませんが、労務の鼻はかなりきく自負はあります。私は、ある時、倒産していく企業のコンサルティングをしていく中で、次のことに気が付きました。

  • 倒産の原因である資金ショートは、最後の結果に過ぎない。

高い技術力やサービスがありながら、金融機関の貸し渋りによる倒産や後継者がいないことによる事業譲渡なども多いので、ひとくくりには、出来ません。事故ともいえるような経営上の不運に見舞われることもあります。しかし、一定規模の人員を抱えて倒産となる企業の場合、資金ショートになるだいぶ前の時点で、社内の風潮の中に倒産になった根本的な原因となった悪しき種が既にあると思います。それは次の社風です。

  • 『実利主義』の社風

日本企業の技術力は高く、サービスも良い。社員は、真面目で労働意欲は高い。指示や命令をしなくても、手を抜かずに、働くと言われています。ある意味、『実利主義』とは対極の価値観なのです。ここで皆様に考えて頂きたいのですが、『実利主義』とは、何でしょうか。私は次のように捉えています。

  • 『実利主義』とは、損得を判断のベースに持つ便宜主義。

つまり、その場凌ぎの御都合主義的な考え方です。何でも手っ取り早く、模倣により、楽をして手に入れることばかりを考え出します。この雰囲気に支配されると社内は荒れ、内向きになり、商品・サービスの品質は下がります。さらに、異常なまでにセクショナリズムが高まるのです。セクショナリズムは、どの企業でも一定限ありますが、その異常さの次元が違うのです。当然、労務トラブルの内容も次元違いの相談です。

ある意味、セクショナリズムになるのは、当然のことでしょう。自分の損得の考えがベースになるので、自分の部門のことだけを最優先に考え、グループの関連企業や社内の他部署であっても、自分とは、関係が無い、他人のように接するようになるのです。何か他部署や他の者に、協力していくことは、自分の損だと思うようになるのです。その結果、全員参加体制の全体最適によるシナジー効果が発揮できなくなるのです。結局、会社の利益は上がらず、自分も損をすることになるのです。

短期的な視点にしか立てなくなり、これまで企業が地道に積み上げてきた会社の強みである、目には見えない技術やノウハウの財産、そして何より良き社風を、自分達から捨てているような状況になっているのです。この目には見えない財産こそ、バランスシートには出てこない企業の本当の財産でしょう。

『実利主義』が多勢を占めると、もはや、長期の視点にたち、地道な研究開発や手間がかかる作業に、自分の存在と価値を見出すことが出来なくなるのです。有望な人材は他社に流れ、綱渡りのような引き継ぎとクレームの嵐の中で、社員は疲れきり、部門間の信頼関係は崩れ、経営者と社員の信頼関係も破綻していきます。周囲も離れて信頼を失って、強みを失っていくのです。結果として、最後に資金ショートを起こして倒産。事業譲渡によるリセットになるのです。

仮に各種の状況の中で事業譲渡になっても、『実利主義』に陥っていないなら、魂や精神性、その意思は引き継がれ、譲渡先企業でも力を発揮してすばらしい商品やサービスを提供するはずです。このような企業は、買収先としては、最適な企業でしょう。一方、経営者や幹部が、『実利主義』に陥ってしまったら、会社全体、急速に『実利主義』がはびこるようになり、もはや再生は難しくなるでしょう。

成果主義の功罪における罪の一面は、この『実利主義』に陥ったこととではないでしょうか。私は、成果主義の罪の一面を認識しながらも、成果主義を必要なものと考え、決して、『実利主義』には陥らせない。私は、この目に見えない、形もないが、破綻の種である『実利主義』を危険視する一方、『実利主義』の対極をなす精神性こそ、日本企業の伝統的な強み、財産であり、人材育成の根幹をなすものがあると思うのです。

作成日:2011年10月3日 屋根裏の労務士

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