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「公平感」を持たせる労務の対応

2018年卒業者の就職活動が始まりました。採用情報の公開は昨年度と変更はありません。3月からの一斉に解禁となりました。先週、クライアントの人事担当者の中には、合同就職説明会で、終日、不在にしていた方もいました。

採用面接の選考の開始時期。2カ月前倒しになりました。また、企業によってはそれ以前から選考を開始することもあり、選考開始時期が、全体的に以前よりも前倒しになりました。そのため、就職活動は、企業側も学生側も、例年以上に短期決戦になりそうです。

近年、労働市場は、人手不足。どのクライアントも、採用をしていくために多額な求人広告費や人材紹介料が発生している状況です。特に、中小企業では、「採用活動」は頭の痛い経営課題になっています。

昨今の採用難の「人手不足」の状況。新卒の就活は、バブル期並みの『売り手市場』。2017年卒の採用に関して、2016年12月時点で、採用予定数を満たす内定者を確保できた企業は、下記の割合です。

  • 大手グループ会社や中堅・中小企業のうち約6割程度。

採用予定人数を確保できない企業のうち、約2割の企業は採用予定数に達しないまま、既に採用活動を終了しました。残りの2割の企業は、採用予定数を目指して、3月いっぱいのギリギリまで、採用活動を継続していく意向のようです。クライアントの中でも、今年の4月入社での採用を目指して新卒・第二新卒の採用活動を続けている企業も少なくありません。

私は、クライアントの方とお会いする度に、下記のことをお伺いしています。

  • 「今は景気が良いですか?」

弊社のクライアントの企業は、下記のようなご回答が多いです。

  • 「お陰様で、予算の達成はそれなりに出来ましたが、
    景況感はあまり感じられません。」

人口減少で市場が縮小している日本経済。漠然とした『将来不安』を抱える中で、今期の予算はそれなりに達成ができても、なかなか、「安心感」を抱くところまでの心持にはなれないようです。

どの企業でも、7年半前に起きたリーマンショックでの恐怖体験。漠然とした『将来不安』として、経営者や従業員の精神の奥の奥まで、それこそ皮膚感覚になるまで、刷り込まれているようです。そのため、利益が出ても、企業側は、設備投資や固定給の昇給ではなく、内部留保に回して、従業員への還元は、賞与での対応に留めています。

一方、家計の方は、利益の還元として支給された賞与の所得。消費ではなく貯蓄に回してしまっており、デフレ基調で厳しい市場動向は改善されません。現在、経済市場は厳しく、「景況感」は感じない現実がある一方で、若年層の労働市場に関しては、空前のバブルが到来しています。現在の市場は、これまでの日本経済に無かった現象だと思います。

  • 景気があまり良くないのに、仕事はあり企業は労働力不足。
    若年層の雇用については、「超売り手市場」でバブルの到来。

それとも、景気は回復していても、将来不安があまりにもあるので、「景況感」を感じないだけでしょうか。

先月、人材紹介会社の方とお会いしました。現在、人材紹介会社は、昨今の人手不足でバブル状態で、儲かっているようです。新卒、第二新卒であれば、引く手あまたで、どの企業でも若年層の人材を欲しがり、簡単に採用が決まり、簡単に紹介手数料を稼ぐことが出来るそうです。

企業側の立場でも、厳しい市場で稼いだ利益。求人広告費や人材紹介料の採用経費にあてがっているのです。更に、それだけ多額な採用経費をかけても、良い人材を採用していくのは、難しいのが実情のようです。

そこで、優秀な人材の採用をしていくために、福利厚生や労働条件の見直しも検討している企業が増えているのです。有給休暇を入社と同時に付与したり、新しくバースデー休暇制度などの特別休暇を新設したりです。

さすがに、バブル期のように、高級車をあてがったり、海外旅行に連れて行く企業はありませんが、新規学卒者に対しては、幹部候補生として海外留学を約束したり、資格取得費用を約束する企業も出てきました。更に、新規学卒者に対してだけ、一定期間、借上社宅制度を適用するケースもあるのです。

現在、頑張っている社員には、ほとんど利益は還元されず。まだ、企業に何ら貢献していない方に対して、自分たちが稼いだ利益が使われるのです。結局、人生というのは、まったく、社会というのは、下記のことだと、つくづく感じています。

  • 『公平』に出来ていないということ

どの時代に入社してくるか、さらに言えば、どの時代に生まれてくるかで、得られる効用が全く違ってくるということです。

就職活動をする時期の巡りあわせが、『超買い手市場』の下で、リーマンショックや就職氷河期のタイミングにあたってしまったら、本気で自殺まで考えるような気持ちになったり、散々、上から目線で頭を踏ん付けられるような嫌な思いをしながら、就活する破目になるのです。

給与制度のコンサルティングをしていると、よく分かることがあります。リーマンショックの不況下に入社してきた人。評価や実績が良くても、概して、給与の水準が低い傾向にあるのです。一方、ここ数年の間に、中途で入社してくる人。評価や実績が悪くても、概して、給与の水準が高い傾向にあるのです。

かつての様に、有効求人倍率が低い、『買い手市場』での採用であれば、労働市場に人が溢れているので、企業側の視点で見れば、人材を安く買い叩いて、酷い扱いにしていても採用ができたのです。現在の様に、有効求人倍率が高い「売り手市場」での採用になれば、労働市場に人が少ないので、企業側の視点で見れば、高待遇な労働条件にして、入ってくる社員を大切にしなければ、採用ができないのです。

結局、本人の努力とは関係がないところで、どのタイミングで入社してくるかによって、得られる効用は異なり、需要と供給のバランスで、労働条件は決定されてしまうのです。農家が努力をして美味しい野菜を丹念につくっても、天候などによって収穫の多寡により、市場での流通量によって取引価格が決まってしまうのと一緒です。

現在、新規学卒者に対しては、高待遇の労働条件を出している企業が増えています。それが出来ているのは、現在、頑張っている在籍者がいるからです。人間というのは、野菜と違って、感情があります。「公平感」が損なわれれば、モチベーションを失わせるものです。すぐに、ふて腐れて、すぐに、やる気を無くすのが人間というものです。

新卒採用、中途採用の採用戦略も大切ですが、在籍している社員とのバランスや調整も大切です。社会も企業も、『公平』には出来ていませんが、上に立つ者は、「公平感」を持たせるための労務の対応が必要だということも、頭に入れておく必要があると思うのです。

作成日:2017年3月6日 屋根裏の労務士

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