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『妊娠降格』

妊娠を理由とした職場での降格処分について、最高裁は、男女雇用均等法が禁じる不利益処分にあたり、違法とする判断を示しました。

私は、テレビでこの報道を見た翌日。定期購読している以外の新聞5紙を購入。ほとんどの新聞が、一面で大きく取り上げ、関連記事を含めて、詳細に取り上げられていました。6紙の記事を読み比べながら、今回の判決についてその背景や趣旨を確認しました。

今回の事件の発端は、広島市の病院で理学療法士をしていた女性が、妊娠中に、「軽い業務への転換」を会社に求めました。これを受けて、会社は、別の部署に異動させます。会社は、異動に伴い、副主任の役職を外して、月9,500円の手当を無くしました。

異動先には、既に主任がいました。会社側は、同じ部署に、二人の管理職は必要ないとして、副主任の役職を外したのです。

この会社側の対応に対して、妊娠により降格させられたのは、男女雇用機会均等法の不利益処分にあたるとして、元勤務先に、約175万円の損害賠償を求めた訴訟。

今回、最高裁は、原告敗訴の2審判決を破棄。降格は女性の意向に反し、降格の必要性について、審理が不十分だとして、広島高裁に審理を差し戻しました。

今回の判決の骨子は下記です。

  • 妊娠中の負担の軽い業務への異動などを契機に
    降格させるのは、原則として違法。

  • 女性が自由意思で降格を承諾したとき、または、
    降格させなければ業務上の支障があると
    認められる特段の事情があるときは、
    例外的に違法とならない。

今回の判決は、妊娠中の異動に関して、企業側の裁量権を大幅に制限するものである判決と言えるでしょう。裁判官5人全員一致の意見。最高裁が、雇用主側に、働く女性に対して配慮を強く促した形です。

この報道が出た翌日に、次のご相談がありました。

  • 「育休明けの復職に際して、本人の希望を踏まえて
    これまでよりも、軽微な業務に配属させた場合、
    同意が無ければ、報酬を変更することが出来ないのですか?」

判例とは、基本的には、個別事案のことです。今回の判例が、今後の労務の対応に、大きな指針となり、判断になることは、間違いありません。しかし、基本的には、ケースに応じて、個別に検討して、そのときの諸事情を踏まえて、対応していくものなのです。今回の判決が、すべての対応の答えにはならないのです。

今回の判例ですが、私は、次のように解釈しています。

  • 女性が妊娠したら、それを理由に、会社の裁量権で、
    当たり前の様に、降格させることは原則禁止。

上記は、至極当然で、当たり前のことだと思います。流産することがあるかもしれない、妊娠中の女性に対して、配慮や気付かいをすることなど、社会的な常識だと思います。そこに賃金の減額などは、入る余地も無いと思います。

しかし、女性が妊娠したら退職して家庭に入るという、古い価値観の下、マタニティー・ハラスメントが、横行している実態があります。

正直、若年層の賃金が上がらないで、低賃金が常態化した社会。若年層の非正規化率は依然として高いままです。共稼ぎをしなければ、結婚生活そのものが、成り立たない実状があります。

少子高齢化で、人口減少が社会的に、深刻な問題になってきている現実があります。出産後も女性が働ける社会の仕組みを、作っていかなければなりません。

今回の判決は、最高裁が、深刻な少子高齢化の状況を踏まえて、女性の働き方について、社会に意識改革をさせる目的も、あった様な気がしています。一方で、今回の判決は、企業側の視点に立った時、少し腑に落ちないところがあります。

それは、本人が、自分から、軽い業務へ転換を希望したことです。均等法の解釈論で、様々な解釈もありますが、軽い業務へ転換したのであれば、賃金が下がることも会社の人事制度を踏まえて、あり得ることだからです。

今回の事案で、最高裁は、軽い業務へ転換して、副主任を外れたことで、負担が軽減されたどうかの説明や程度は明らかでなく、女性に有利な面は不明な一方で、地位と手当を失う不利な面は明らかで重大としました。

更に、降格が必要な特段の事情についても、主任に加えて副主任を置くと、業務上の支障が生じるのかどうかが明らかではないとしました。正直、今回の判決だけでは、例外的に違法にならないとされた、「業務上必要な降格」が、何をさしているのかは、分かりません。明確に具体化されておらず、曖昧なままです。

いずれにしても、今後、妊娠中や産休・育休明けに際しては、高度な労務の問題として、都度、個別に対応していくしかありません。

今後、妊娠中や育休復帰明けの女性社員の人事対応。相談案件は増えてくると思います。

今回の判決を踏まえて、妊娠中や産休・育休明けで、軽微な業務や時短を希望して、賃金も下がらないと当然に思っている方も出てくるかもしれません。

企業の人事総務の担当者は、各種調整が大変ですが、益々、要注意をして、対応が求められることになりそうです。

作成日:2014年11月3日 屋根裏の労務士

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