コラム Column

「働き方改革関連法案成立に伴う影響」

例年7月10日の年度更新と算定基礎届の時期を過ぎれば、時間に余裕が出来てきて、少し、ゆっくりすることが出来ます。7月中旬から8月のお盆過ぎまでは、クライアントの方々も夏休みに入ります。例年この時期は、緊張状態から解放されます。自分のプライベートを過ごすことができる時期です。

しかし、今年は7月の中旬が過ぎて8月になっても、緊張状態の対応が続いています。緊張状態が続いているのは下記のためです。

  • 労働基準監督署の厳しい内容の臨検が
    連発しているため

労働基準監督署の自主点検も増加しています。昨年までは、6月下旬から8月くらいまでは労働基準監督署の臨検や自主点検はあまりありませんでした。夏の時期の役所の調査は、下記の調査が主となっていました。

  • 日本年金機構や健康保険組合の調査

算定基礎届の対応に伴う社会保険の加入状況の調査です。弊社のクライアントは、適正に社会保険に加入させているため小生が同席して対応することは基本的にありません。

役所の臨検は年間を通じて行われています。それでも、臨検の時期によって、実施される臨検の内容やテーマが微妙に異なり、厳しさの強弱もあります。

例年、11月の時期に実施される労働基準監督署の臨検。概して、厳しい調査になることが多いのです。理由は下記のためです。

  • 11月は「過重労働解消キャンペーン」の時期のため

以前は、未払い残業の是正に伴うキャンペーンであり、労働時間管理や未払残業の是正指導が強化される時期。11月に労働基準監督署の臨検に入られた場合、厳しい臨検になる展開が多いのです。

12月に是正勧告書や指導書が出されて、その後、数ヶ月の期間に渡り、監督官とお付き合いしていく展開になるのです。労働基準監督署への報告状況によっては、更なる調査を受ける展開もあり得る状況になります。

しかし、今年は夏の時期でも日本年金機構の調査に加えて、労働基準監督署の厳しい臨検が連発。その対応に追われています。その理由は、今年は、「働き方改革関連法案」が6月29日に成立したからでしょう。

働き方改革関連法案を踏まえて、厚生労働省の指導強化事項の方針事項があります。指導強化事項の方針事項を記した内容が下記です。

  • 附帯決議

附帯決議とは、可決した法案に対してその委員会の意思を表明するものです。その法律の運用や将来の法改正による改善希望などが書かれています。法律ではないので、法的拘束力はありません。しかし、政府はこれを尊重する必要があるとされています。

附帯決議の内容は、厚生労働省のトップから労働基準監督署に現場で要調査するように、臨検の指導強化内容へと変わる可能性が高いのです。附帯決議の中のひとつに下記のことが記載されています。

  • 管理監督者など労働基準法第四十一条各号に該当する
    労働者の実態について調査するものとすること。

7月と8月と立て続けに、「管理監督者の範囲が妥当であるか否か」について要調査を受ける臨検がありました。最初の臨検では、附帯決議との関連性について小生の方も不確かな心持でした。監督官の気まぐれでの臨検内容だったとも捉えていました。

しかし、2件も立て続きに同じテーマで調査があれば、今後の臨検の傾向に、『管理監督者の適用範囲の調査』があり得ることを直感的に感じてきます。

『管理監督者の適用範囲の調査』は、平成20年から21年ごろにマクドナルドの「名ばかり管理職」が社会問題になった時期に多発した臨検内容です。当時、通達が出てきましたが、結局、抜本的には解決されませんでした。

その後、リーマンショックの大不況などもあり派遣切りやブラック企業などに社会的に関心が変わったため臨検でも、『管理監督者の適用範囲』について、調査で指摘されることはありませんでした。

今回、働き方改革関連法案で、野党や市民団体から「残業代ゼロ法案」、「過労死促進」などと強い批判を浴びながらも、高度プロフェッショナル制度が創設されました。ご存知の通り、高度プロフェッショナル制度には、下記のような年収用件があります。

  • 「適用年収条件1,075万円以上」

実は、上記の年収条件は、具体的な金額が法案に記載してあるわけではないのです。法案では下記のようになっているのです。

  • 「年間平均給与額の3倍を上回る水準として
    厚生労働省令で定める額」

省令で定める金額が1,075万円以上という構成になっているのです。そもそも、「高度プロフェッショナル制度」が創設されるにあたり下記のことが疑問になるのが、普通の感覚だと思います。

  • 「高度プロフェッショナル制度」と『管理監督者』との関連性や整合性について

小生もそんな疑問を抱きながらも、「高度プロフェッショナル制度」の議論を注視しながら、法案の可決を見届けていました。

政府や官僚の腹の中は、まずは、「高度プロフェッショナル制度」の法案を通してから、『管理監督者』との関連について、じっくり調査して社会の動向を窺いながら、法制度について取り決めていくということなのでしょうかね。

もっとも、管理監督者というのは、会社ごとに規模や性質も違うので、具体的な基準というのは、あり得ないとも思っています。

マスコミも、思いつきのように断片的にしか報道しないので、政府や官僚の腹の中は、出されたカードから推測するしかありません。

厚生労働白書などは、政府や官僚の腹の中を探る重要な情報源です。白書は政治社会経済の実態及び政府の施策の現状について、国民に周知させることを主眼としたものです。というより、政府は国民には先に言ってあったという証拠になるものです。

厚生労働白書は政府の施策についての現状分析などを記した重要な情報源ではありますが、専門家でもなければ、通常、社労士の受験生以外は読んでいない報告書です。

現行の判例や通達で、「管理監督者」での範囲で検討した場合、調査に入られて、厳格の基準で確認をされ指導を受ければ、取締役に近いかなり権限をもった部長職クラス以外は「名ばかり管理職」になっているのが、日本の企業の実情です。

今回、2件とも全国展開している企業の地方支社で「管理監督者の範囲」に関しての調査が入りました。最近の臨検は、いずれも、事前予告の調査ではなく、監督官が突然訪れての臨検となっています。

こんなに厳しい臨検が一年中連発していては、小生の方も心労で、体が持ちません。監督官の人数が増えているわけではありません。監督官も膨大な仕事を日々抱えているのが実情。

現在は、法案成立で監督署が調査を特に強化している時期のはずです。6月29日に可決・成立した働き方改革関連法案。今後、しばらくの間、緊張状態の対応が続くこと。覚悟しています。

作成日:2018年8月6日 屋根裏の労務士

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