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「暗黙知の世界!」

大掃除をしていたら、サラリーマン時代の資料が出てきました。自分が新人の時に、使っていたノートから私が各種作成したマニュアル、説明資料などがごっそり出てきたのです。若かりしときに、作成した資料と作品の数々。今は、もう必要がありません。私の中ですべて血肉化されているので、ひとつひとつ昔を思い出しながら、すべて処分しました。

私は、コンサルティング・ツールなどの資料作成には、それなりの自信を持っています。クライアントからは、「どこかプロに外注しているのか」と聞かれることもあります。もちろん、規程から説明資料、シミレーションまで、基本的にはすべて自分で作成しています。この資料の作成能力のベースは、サラリーマンの時にある上司から叩き込まれた能力です。

サラリーマンのときに、上司だったある部長は、いつもプロの業者顔負けのプレゼン資料を作成していました。当時は、Windows3.1で一太郎の全盛のときです。パワーポイントが、Windowsに出てきたのは、確かOffice97からのはずです。当時は、まだプレゼン資料の多くはワードでしたが、部長はいつも見事な資料を作成していました。

部長の直近の部下であり右腕だった私は、資料作成から各種交渉に至るまで、会社の技術やノウハウを下記のように身につけました。

  • 「やっておけ!」という「暗黙知の世界」

この部長の下にいたときから、社内通達用の資料やマニュアルなども作成していたので、現在の業界に入ってきたときも、資料作成や各種交渉などのベースは、出来ていました。

年末の大掃除の途中、昔を思い出しながら、かつて若かりしときに作成した資料と作品の数々を眺めていました。当時の私は、いつも会社の業務マニュアルなどについて、次のように思っていました。

  • 『うちの会社はマニュアルもノウハウも体系化されておらず、いつも現場に丸投げの状態だ!』

ISOの品質基準の前に、そもそも本業の社内のマニュアル整備を何とかするべきだと。当時のことを思い出して掃除をしていたら、次の資料が出てきたのです。

  • 『会社から配布された詳細なマニュアル』

私は久しぶりにこのマニュアルを見てビックリしました。業務のフローや手順が、物凄く詳細に見やすく作成されていたのです。膨大な業務や注意事項がこと細かく分かりやすい資料。しかし、不思議なことに、このマニュアルを見て仕事をした記憶が私にはほとんど無いのです。周囲の者もマニュアルを見て仕事をしていた記憶もありません。若いときは、「マニュアルが無い」と散々言っていたのに、会社から配られた、すばらしいマニュアルは、ろくに使っていなかったのです。

このマニュアルの実際の作成者は、私が尊敬する大先輩です。業務の詳細を理解して、見事なまでにマニュアルを作り上げています。しかし、ほとんどの社員はあまり活用していなかったでしょう。理由は、初めての方はマニュアルがあっても、現実の業務は出来ないからです。また、一度、業務が出来るようになれば、自分の完成させた作品自体が、新しい仕事における手順や考え方のベースとなるからなのです。

多くの業種に共通のことですが、複雑系の業務では、マニュアルによる対応は出来ません。組織活動をしている以上、一定の品質を確保するために、業務マニュアルなどは必要でしょう。一定規模の企業なら、ISOなどに代表される膨大な作業手順や品質基準があります。しかし、複雑系の高度業務を遂行するためには、下記のことをしっかりと意識すべきでしょう。

  • マニュアル化の限界

最近、知り合いの子が、日本を代表する最先端モノづくり企業に入り、技術屋になりました。私は次の質問をしました。

  • 「会社には、しっかりとした体系化されたマニュアルがあるのか?」

「マニュアルは、あって無いようなもの」と言っていました。高度な専門技術なので、マニュアルでは対応できないのです。上司は、「やっておけ!」だそうです。以前、ある有名巨大企業に勤務する定年前の技術系の部長と知り合いになり、技術の継承方法や人材育成について質問したことがあります。最近では、座学などにも力を入れだし、ゆとり世代への理解も取り入れられてきたと言っていました。しかし、現実の日々の業務では、基本は「やっておけ!」で終わりだそうです。つまり、そこは、「暗黙知での叩き上げの世界」なのです。

弊社のクライアントでも、高度技術を要する専門集団の企業の方々に、「マニュアルがあるのか」と質問したことがあります。優秀な技術集団であるクライアントの企業でも、「マニュアルはあって無いようなもの」と言っていました。基本は、「やっておけ!」であり、手とり足とり教えたりしていないと言っていました。

ここで、皆様に考えて欲しいのは次のことです。

  • 「皆様の仕事はマニュアルで対応が出来るのか?」

このメールマガジンは、経営者や管理職の方々を対象にしています。恐らく、皆様の業務のほとんどのことは、マニュアルでは対応できないと思います。マニュアルで対応出来るのは、スタッフ職の定型化された業務でしょう。経営者や幹部の仕事は、業務リストはあったとしても、それを遂行するためのマニュアルは無いはずです。逆に、マニュアル化が出来ているのであれば、事務員でも出来るということでしょう。

これまで、私は、自分達の会社にしっかりとしたマニュアルがあるという方には、中小企業から有名大手企業に勤務する方まで、滅多にお会いしたことがありません。大抵、当時の私のように、『マニュアルやノウハウも体系化されていない』と言っています。実は、複雑系の高度専門分野に限らず、ほとんどの分野で、次のことが言えるのです。

  • 『言語による形式知化』には限界がある。

IT技術が導入されデジタル化した受験技術を競い合う、受験予備校の世界ですら、今でも主流は、授業というアナログ世界にあるのです。すでに正解のある机上世界の領域ですら、『言語による形式知』で教えるのには、限界があるのでしょう。ましてや、日進月歩のビジネスの現実世界では、『言語により形式知化』できるものは、入り口の段階でしか無いのです。

同様に、労務の分野でも、『言語による形式知』の世界にあるのは、実は、最初のステージの段階なのです。私が作成する就業規則や規程は、詳細に様々なことが記載してあるはずです。恐らく、通常の3倍以上のボリュームのはずです。私は、『言語による形式知』での世界を極めることを目指す一方、もう、ずっと以前から、実は、下記のことを意識しています。

  • 「暗黙知の世界での労務マネジメントの必要性」

企業が成熟して複雑・高度化する過程で、『形式知でのマニュアル化』された領域から、マニュアルには出来ない、「暗黙知での領域」へと拡がりだすのです。そして、そのための労務やマネジメントの力が必要になり、優良企業の多くのリーダーは、その能力を身につけているのです。

弊社のクライアントの多くは、最初のステージから、次のステージを目指し、既にその中にいる方々も多い。

  • 「暗黙知のステージにおける労務」

そこは、『形式知の知識や情報、マニュアルの世界』ではなりません。「暗黙知の知恵や伝承の世界」なのです。私は、誰にでも出来る『形式知のマニュアル化』を目指すのではく、自分にしか出来ない「暗黙知のステージにおける労務」を目指します。私の労務コンサルティングの真骨頂は、この「暗黙知の世界」にあるのです。

日本企業の文化でもある「やっておけ!」は、決して丸投げしているのではありません。そこには、『形式知』では表すことは出来ないが、「暗黙知」の中で様々なノウハウが奥深くあるのです。そのことについても、追々、触れていきたいと思います。

「新しい目標と課題となる難解な山々を目指して」、お互いに新しい気持ちで始動です。

作成日:2012年1月10日 屋根裏の労務士

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