コラム Column

「気持のスイッチ」

先週、4ヶ月前ぐらいに一度、ご相談を頂いてから、再度、当社でのご検討を考えて頂いた方から、連絡を頂きました。各種検討をしたうえで、弊社に依頼することを決めたそうです。連絡を頂いて、とても嬉しくなりました。ご相談内容は、下記です。
  • 「退職金制度の見直し」と「厚生年金基金の任意脱退」、「DCの導入」

依頼者の役員は、各種セミナーに参加したりして、各種情報収集。コンサルティング会社や社労士事務所の方とお会いして、見積りをとったり、コンサル・スキルなどを比べたりしていたそうです。その中で、弊社とコンサルティングのプロジェクトを進めていきたい旨の連絡を頂きました。私は、相談のときは、口頭で概算のお見積りだけで、正式にお見積りとスケジュールを出していませんでした。

そこで、正式にお見積りとスケジュール作成をするにあたり、少し日数を頂きたい旨を説明。依頼者からのご希望や課題を再度ヒアリングさせて頂き、お見積りの方を作成しようと考えて、再度、依頼者にお会いしました。

この企業は、中堅企業規模の優良企業。既に、他の社労士事務所とも2社、継続的な顧問契約を結んでいるそうです。1社は、社会保険の手続をする社労士事務所。もう1社は、労務の相談をする社労士事務所。2社の事務所とも、一応、普通に、対応してもらっていると話していました。就業規則なども一通り見直して頂いたそうです。しかし、日常的な労務の相談なら任せられるが、イレギラーなことなど任せられないと言っていました。

しかも、偶然にも、私と面識のある先生の事務所。名前が出てきて、びっくりしました。事務所の代表の先生の対応ではなく、通常、社労士資格があるスタッフが窓口となり担当しているようです。私は、スタッフではなく、事務所の代表の先生に、直接ご相談をすれば、基金の脱退などについても、対応して頂けるはずだと要説明をしました。

ホームページや会社案内、プレゼン資料で、それぞれのコンサルティング会社の実績を確認できたそうですが、実際に打合せをしたら、特段、専門性を感じることができず、深刻な内容を相談できる雰囲気ではなかったと話していました。改めて、お打合せをしたとき、依頼者のご希望は次のような内容でした。

  • 自社で作成したものを、弊社に都度、確認して頂き、
    添削やアドバイスを求めるという進め方。
    その都度、報酬を支払い、
    進めさせて頂きたいとのご希望でした。

自分たちがやっていることが、正しいか、間違っているかの判断をして頂き、正しい方向に導いてもらい正解を教えて頂きたい旨を説明していました。自分たちだけでは、不安な面が多いので、プロジェクトの間、誰か、いつでも相談ができる、頼りになるコンサルタントについていて欲しいとのことです。報酬については、取り決めた適正な金額をきちんと支払う旨を話していました。

今回、上記のような方針を決めたのは、次のような理由だそうです。これまで、人事制度のプロジェクトで、1000万円以上の金額をかけても、打合せと制度の策定だけで、結局、導入しなかったことも度々。現段階で導入するかどうかも、不確かな企業年金の整備に、予算をとることは出来ない旨を、役員会で言われたそうです。

それを受けて、私の方も週末に色々と考えさせられました。というよりも、結論については、考えるまでにいたりませんでしたが。丁重に辞退をさせて頂きました。多分、ここの企業は、現状維持のままで、制度を改定しないと思います。私が、辞退させて頂いた主な理由は、下記です。

  • 中途半端に関わってしまうと、ご迷惑をかけるリスクが高くなるから。

コンサルティングとは、形がありません。そもそも、正解というものも無いと常々考えています。クライアントの事情に応じて、その場その時の判断なのです。コンサルティングとは、クライアントと共に、課題を共有して、共に乗り越えていくものだと捉えています。

特に、厚生年金基金の任意脱退を踏まえての対応。手続きは、決まっていますが、一連の相談を踏まえてのマニュアル的なものは、無いと思います。毎回、毎回、鉄火場での個別対応。何か便利なマニュアルで、切り抜けられるものでありません。

そもそも難しい労務の相談の多くが、一般論ではなく、個別論なのです。定石で、対応できるものではありません。マニュアルのようなQ&Aの形式知で対応出来ないことも、労務の問題では多いものです。

コンサルティングのプロジェクトは仕事を請ける際に、最後までやり遂げる強い覚悟が必要です。私は、毎回毎回、その覚悟の下に、緊張しながら、臨ませて頂いています。

制度は完成したが、導入しなかったという顛末。コンサル報酬をすべてお支払して頂いたとしても、私は、そのプロジェクトは、失敗という認識をもっています。私のクライアントで、制度が完成しただけで終わりになったというケースは、一つも無いはずです。時間がかかったケースもありますが、皆様、すべて、完成した制度が導入され、運用されているはずです。

一つ一つのコンサルティング。私にとって、単なる仕事ということではなく、己の魂を削りながら取り組む作品づくりだからです。中途半端に関わることに、私のモチベーションがあがってきませんでした。作品づくりに、自らの魂を削る境地になれなかったのです。

  • クライアントを助ける。
    何が何でも助ける。
    最後まで寄り添いながら、
    最後まで離れず、一緒に見届ける。
    そして、必ず、解決してやり遂げる。

今回、いつも体から湧いてくるそんな気持ちが出てきませんでした。中途半端な依頼では、中途半端でしか助けられないのだと思います。それでも、付き合いだせば、情がつくものです。

しかし、今回は、自分のことの様に、クライアントを心配になる気持ちが出てこない気がしてきたのです。自分のことの様になれなければ、良い知恵や発想、アドバイスも出てきません。

金を得るための仕事と割り切り、流して対応してしまう自分。そんな自分が出てきてしまうことが怖いのです。私自身、流されて対応をされて、散々、嫌な思いをしたことが、過去に度々あるからです。長期にわたり、時間を無駄にされ、後悔と怒りという腹立たしい感情になったからです。そのときの私の気持ちが下記です。

  • 「流してやるような仕事しか出来ないのであれば、専門家ヅラして入ってくるな!」

仕事とは、やりたくないことでも、やらなくてはいけません。好きな仕事だけをやって過ごしているような人。この世に、誰もいないと思います。生きていくために、時として、気持ちが乗らず、請けたくなくても、請けることもあるのだと思います。やりたくないことも、やらざるを得ないこともあるものです。

しかし、誰にでも、単なる仕事としてではなく、己の魂を削りながら、作品として請けるプライド。あるものだと思います。「気持のスイッチ」が入らないときは、請けないという一線。持っていた方が良いと思います。

結果として、カネと割り切り、流してやっている様な仕事の顛末になり、相手にも、ご迷惑をかけることになりかねないのですから。

気持ちが無く、愛情を持てない人。一緒に居ることは、中々、出来ないと思います。その場の時間を流して無駄に過ごすだけ。無為な時間を過ごすだけになるような気がします。

実は、気持ちが無い人からは、人生の大切なことに関して、学ぶことが出来ないのです。無理に一緒にいても、自分が停滞するだけで、自分が成長することは無いのです。それどころか、自分が擦り減り駄目になってしまうのです。

同様に、クライアントも、愛情が抱けない企業に対して、課題や心配、苦しみをともに共有することは出来ないと思います。クライアントの痛みを自分の痛みとして、感じることが出来ないのですから。

カネは大切。とてつもなく大切。そんな大切なカネでも、買えないものもある様な気がします。そもそもサービスには、相場というものもあるものですから、桁が違うような法外な報酬もあるはずがありません。仮定の話は、現実にはありえないのです。

私は、愛情を抱けるクライアントに出会えて、幸せな社労士だと思います。

「皆様、一緒にいてくれて、ありがとうございます。」
「私に、ついてきて頂き、ありがとうございます。」

作成日:2015年2月2日 屋根裏の労務士

お問い合わせ

電話番号 03-3988-1771 受付時間9:00~19:00(土日祝祭日を除く)

お問い合わせ

コラム

  • 採用情報