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『大介護時代』に突入していく足音

最近、日中に電車に乗ると、以前にも増して、元気な高齢者の方々を見かけることが多くなりました。人口が爆発的に多い「団塊の世代」の方々が65歳を迎えて、完全に退職したのが大きな要因でしょう。

オリンピックイヤーとなる2020年を過ぎると、「団塊の世代」の方々が、75歳を迎えて後期高齢者となります。日本社会は、次の状態になると分析されています。

  • 『大介護時代』に突入

世界に類を見ないような少子高齢化社会の日本。政府は、「介護離職ゼロ」を政策スローガンに掲げています。しかし、具体的な対応への道筋も見えていません。見えていないというより、介護は大変難しい問題なので、その状況になってみないと分からないという方が正しいとも考えています。

ワークライフバランスを目標に掲げている企業。弊社のクライアントの中でも、だいぶ、多くなりました。しかし、介護に関しては、どの企業も難しい課題であり、具体的な対応を手探りで模索中の状態です。

中小企業では、会社の制度としては、法律最低限の対応をして、実際に介護者が出た場合、個別に対応しているのが実情です。まだまだ、元気な高齢者の方々がいます。その一方、ヨロヨロしながら、杖をついた高齢者の方も、見かけることが多くなったような気がします。

高齢期の健康状態は、人によって様々です。杖をついた高齢者が、自分が座っている近くにいたら、ほとんどの方が席を譲ると思います。先日、電車に乗っていたら、下記の高齢者を見かけました。

  • 車内なのに、携帯電話で話しているご高齢の女性

社会の道理をわきまえたご年輩の方にも関わらず、マナーが悪い方だと思っていました。電話で話している内容は、次のような内容です。

  • 「もうすぐ、帰るから、待っていて。」
    「あと、20分ぐらいで帰れるから、待っていて。」
    「あと、一駅で着くから、待っていて。」
    「すぐ行くから、待っていて。」
    「大丈夫だから、待っていて。」

電車の中なのに、何回も着信音が鳴り、その度に、同じ内容の電話のやりとりをしているのです。また別の日に夕方の時間帯に電車に乗ったとき、再度、同じような場面に遭遇したのです。短い間隔で何度も何度も着信音が鳴り、下記のような応答をしているのです。

  • 「すぐ行くので、大丈夫だから、待っていて。」

私は、社会の大先輩でもあるご高齢の女性のマナーの悪さ。イライラしながらも、そのやりとりを観察していたら、次のことに気が付いたのです。

  • 誰か、介護をしている人がいること

車内で電話をしているご高齢の女性は、誰かを介護しているのです。恐らく、自分の夫、若しくは、更に高齢になった自分のご両親でしょう。

先週、育児介護休業規程のご依頼を頂き、64歳を迎える女性の役員の方と打ち合せをしていたときです。この電車の一件について、話題に出しました。役員は、間違いなく、この高齢の女性は、誰か介護している人との電話のやりとりだと言っていました。

実は、この64歳を迎える女性役員の方。90歳近くになる自分の母親の介護をしながら、今でも、現役で仕事を続けているのです。会社に出勤しても、午前中は、毎日毎日、介護施設にいる実の母親から、何度も何度も電話があるそうです。

電話で話している内容は、何か緊急を要するような要件ではありません。高齢の母親の気持ちを落ち着かせるためのやりとりだそうです。毎日、午前中は30分ぐらい、やりとりをするそうです。何度も何度も、母親から電話がかかってきて、その度に下記のことを伝えて、気持ちを落ち着かせるそうです。

  • 「今日も施設に行くので、大丈夫だから、待っていて。」
    「大丈夫だから、待っていて。」

会社に出社して、朝礼が終わると、母親から何度も何度も電話がかかってきて、そのやりとりで30分。施設に居る母親の気持ちを落ち着かせることから、午前中の仕事が始まるのだそうです。

電車の中で、電話をしていた高齢の女性のやりとり。母親が介護施設に入所する前に、自分もしていた時期があったと話していました。

この女性役員は、会社の創業期からのメンバー。財務と労務部門の取締役です。ある程度、自分のペースで仕事を進めていくことが可能なため、仕事と家庭を両立させることが出来ていると話していました。つまり、ワークライフバランスを実現させているのです。

自分の親の介護に関して、不安を持っていない人。恐らく、あまりいないと思います。

  • 親の介護を抱えながら、今の仕事を続けて
    介護と仕事を両立させていくこと。

多くの方が、漠然とした不安を抱えていると思います。実は、私は、親の介護に関して、これまで、あまり不安を感じていませんでした。私には、女性の姉妹がいるからです。2歳上に姉がいて、2歳下に妹がいるのです。二人とも、専業主婦で仕事をしていません。

これまで、両親が大病の手術をして、長期に入院をするような事態になったことがありました。家族は、精神的に、大変不安な状態に陥りました。

特に、父親がまだ現役中に、大病になってしまったときは深刻でした。家族が大変不安になり、精神的に動揺をしたため、私が、しばらくの間、郷里に帰っていたこともありました。長男の私が、母親、姉、妹の精神的な支えになりました。家族が、心を一つにして、一緒に繋がることで、家族の不安や動揺を和らげることが出来ました。

しかし、私は、両親の入院中の介護というか看病に関して、具体的には、何一つとして、していません。具体的な看病については、姉と妹が、自分たちの役割であるという意識で、当然のように対応してくれたからです。

この話を親の介護を抱える女性の役員に話したとき、役員から、次のような貴重なコメントを頂きました。

  • 「大病を患っての看病」と『高齢者の介護』とは、
    心労が、全く別の種類の大変さになるということ。

一家の大黒柱である父親が大病した場合も、家族は、過度な心労を抱えることになりました。それでも、気持ちを落ち着かせることができれば、それは、確実に出口がある短い期間での対応になることに気が付き、一つ一つ冷静に対処することが出来ます。

しかし、高齢者の介護は、出口が見えない、長期対応。介護している人が、これまでのような自由な日常生活が出来なくなり、心身ともに疲れ果て、身も心も擦り減ってしまうそうです。

専業主婦の姉と妹がいたとしても、短期的には期待はできるが、長期的には過度な期待はしない方がいいし、介護は家族全員の仕事であり、役割分担をきちんとするように意識しておいた方が良いと、貴重なアドバイスを頂きました。

この女性の役員も専業主婦の妹がいるそうです。最初は、妹が中心になり、母親の介護をしてくれたそうです。しかし、介護が長期化していく中で、心労が重なり、本人も高齢になり、精神的にも肉体的にも参ってしまい、倒れてしまったそうです。

私は、お盆の時期に、一年ぶりに帰省したとき、父親は背骨が痛くなり、通院していると話していました。父は75歳になりました。会話をしていても、同じことを繰り返して、何度も何度も、確認して、聞いてきたり、話してくることが増えてきました。今は、症状が安定して背骨の痛みは無くなったそうですが、杖を突いて歩くような状態になってしまったそうです。

先週、父から、親戚の人が癌にかかり、余命30日になってしまったと連絡がありました。いつ亡くなっても、おかしくない状態。遠方に住んでいるため、父は、自分の体では、もう、一人では葬儀場所まで行くことが出来ない状態にまで体調が悪くなってしまったと話していました。

何か申し訳なそうに。父に代わって、長男の私が葬儀に出席して、何か挨拶をしてきて欲しいと話していました。父は、地方の高校の教師であったこともあり、何やら周囲から色々な相談をされながら、冠婚葬祭が多く、挨拶を頼まれることが多かった様です。

週末に父からのお礼と親戚の住所が記載された手紙。
自宅のポストに届いていました。
日本社会が、『大介護時代』に突入していく足音。
何か聞こえてきます。

介護への対応は、法改正もあります。介護に関しては、具体的に向き合って考えるのではなく、現実逃避をしたり、優先順位を下げてしまい、得てして、先延ばしにしてしまう一面があります。まだまだ、国や社会全体も、介護に関して、十分に現実を受け止められているとは言えません。

介護が伴うことは、得てして難しい対応を求められることが多いものです。しばらくは、個別に対応をしていくことが多いのが実情。社会の動向を踏まえながら、意識や気持ちを共有して、難題に対して、現実に向き合って、これからも、一緒に考えて対応をしていきましょう。

作成日:2016年11月14日 屋根裏の労務士

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