コラム Column

「悪しき文化をクラッシュ」

先週、給与制度の改定の説明会をしてきました。関東と関西に営業拠点を持つ、社員数25名の中小企業。ここの企業とは、かれこれ、10年にわたるお付き合い。

この企業の労務に関する制度は、すべて、私が手掛け、策定、導入、運用の対応をしています。就業規則にはじまり、退職金制度、人事考課制度、嘱託社員制度、管理職研修、年金セミナーなどなど。労務に関する制度は、私がすべて対応しています。

そのため、ほとんどの社員の顔と名前が一致。会社での役割、本人の性格なども、概ね、把握しています。クライアントのビジネスも理解が出来ています。

今回、給与に関する制度自体の大改訂を行いました。これまでの仕組みから、新しい制度に変更したのです。

給与の仕組み自体を変更するコンサルティング。難易度が高く、注意を要する労務の対応の一つ。プロジェクトの依頼を受ける際に、私の方も、かなり慎重になります。

しかし、ここのクライアントは、10年間にわたり、多くの労務制度に関するコンサルティングを手掛けてきた実績があります。社長や役員だけではなく、幹部社員とも信頼関係があります。規模も小さな中小企業です。

会社のことをかなり理解して掴めていたので、少し、安易にプロジェクトの依頼を受けてしまいました。しかし、実際、給与制度のコンサルティングがスタートすると、簡単には、事が運びません。

ここの企業は、創業から60年以上続く老舗企業。最後に、給与制度を改定したのは、もう30年以上前。日々、会社の情勢に応じて変化する、給与の仕組みが、30年も変わらずに、運用されているはずがありません。ここの企業は、会社組織の変化に応じて、都度、諸手当を設けて、対処療法で、個別に対応していました。

給与規程にない手当が、10以上もあったのです。更に、「調整」と称する種類の手当が4つ。もはや、会社全体の給与制度ではなく、個人ごとに応じた給与の仕組みになっていたのです。

現状の制度を理解するだけでも、解読するのに、膨大な確認作業を要しました。さらに、その数多くある手当について、勤怠に応じて、減額したり、加算したりする仕組みが複雑になっていたのです。その上、賞与の算定基礎になる手当なども個別に様々あります。

そんな複雑な運用をしているのに、給与規程などでは、運用に関するルールがほとんどドキュメント化されていません。それでも、新しい制度を策定して導入すれば、従来の仕組みを、一度、クラッシュさせることが出来ると考えていました。

これまで、ここの企業では、社長のリーダーシップの下、数々の労務の仕組みをクラッシュさせて、新しい制度を導入して、運用してきたからです。しかし、給与制度は、一筋縄ではいきません。一度、出来てしまった給与制度というのは、簡単に、クラッシュが出来ないものです。

色々な制度の矛盾や問題を抱えながら、都度、対処療法で、30年も続けてきた制度。社長自身も、制度が、何かおかしいと感じながらも、矛盾や問題がある給与制度が、会社組織と一体になり、しっかりと、自分たちに血肉化されてしまっていたのです。制度というより、会社の文化になっているのです。

役員との打合せの段階でも、膨大な数の手当を無くそうとしても、これまでの制度に、役員の頭が縛られていて、中々、新しい考えや発想で、打合せが進まないのです。

今回、給与制度のコンサルティングをする中で、私が、一番、驚いたことは、下記です。

  • 給与制度が、『複雑な制度』になってしまっているのに、
    自分たちは、『複雑な制度』だと自覚していないこと。

この『複雑な制度』を運用していくための仕組みが、永年の積み重ねの中で、知恵やノウハウとして、脈々と出来上がっていたのです。

毎月の給与計算の作業も、膨大な作業量となっていました。しかし、給与計算の手順が、出来上がっていて、社内では、時間と手間は要しますが、毎月、給与計算ができる体制が出来ていたのです。

話を聞いていくと、ここの企業は、以前、給与計算事務を外部にアウトソーシングに、出したことがあるそうです。しかし、給与計算会社で、膨大な数の給与計算ミスが発生。毎回、毎回、膨大な数のクレームが起きたそうです。『言った、言わない。』、『聞いている、聞いていない。』の不毛なやりとり。数か月で、自社対応に戻すことになったそうです。

複雑化した給与制度は、もはや、自分たち以外では、対処出来ない状態になっていたのです。更に、私と知り合う前に、コンサルティング会社に、給与制度の策定自体を、依頼していました。

制度自体は、一応、完成。しかし、当時、新制度の導入は、見送ることになったそうです。結局、導入が出来ないままに、今回の改定まで、従前の制度で、対応していました。

労務に関する制度は、新制度をつくっても、導入されないことが、よくあると聞きます。社員からの反対があったり、役員会の承認がとれなかったり。

私が対応させて頂いたプロジェクトで、制度が導入、運用されなかったことは、一度もありません。すべて制度を導入させています。皆様の労務の制度として、日々、運用されています。

今回、プロジェクトを受けて、次のことを感じていました。

  • 従前の制度が、何かおかしいと感じていても、
    その制度自体が、自分たちに血肉化していて、
    新しいものを取り入れることが、
    出来ないまでになっていること。

制度が血肉化して、会社の文化になっているのです。

悪しき伝統や悪しき文化、何より、自分の悪しき習慣。

何かおかしいと思っても、自分自身が、過去の慣習に縛られてしまっていて、身動きがとれない状態。悪い習慣にどっぷり浸かっていて、そこから抜け出せないでいるのです。実際、そのようなこと、多かれ少なかれ、誰にでもあるのではないでしょうか。

労務のコンサルティングは、悪しき伝統や悪しき文化をクラッシュさせ、悪しき習慣から、抜け出す力を与えることだとも、今回のプロジェクトを通じて感じていました。

今回、数々のハードルを乗り越えて、やっと説明会までこぎつけました。しかし、まだ、新制度が定着できたわけではありません。日々の運用は、これからです。新制度の真価は、改善を含めて、日々の運用の中で、問われるものだと思うからです。

作成日:2014年6月9日 屋根裏の労務士

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