コラム Column

「笑顔でいること」

小生は評価制度を策定するときだけではなく、法律的な説明が多い就業規則のコンサルティングでも労働法規についての打ち合わせの前に、下記について、ご確認させて頂いています。
  • 経営理念とUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)

クライアントが目指すべき方針、クライアントの強み。小生の方が、しかと理解して、価値観を共有したうえで、会社の基本的なルールを策定する必要があると考えているからです。

大手企業というのは、「言葉の力」による説明を必要とせずに、会社の名称や標章だけで、ブランド化されているものです。そのため、敢えて経営理念やUSPを掘り下げて考えたり、既に、お題目と化している経営理念について、日々の業務の中で、経営者も社員も考える必要がないのです。

自分たちの存在理由について、「言葉の力」を持って、深く考えたり、第三者に対して説明する必要はなく、会社名だけで、存在イメージが確立されているからです。「言葉の力」を超えたブランド・イメージの確立。下記の企業の就業規則を策定させて頂いたときに理解したことがあります。

  • 誰でも知っているようなブランド名のファッション企業

  • 業界シェア世界No.1の企業

一方、中小零細企業では、「言葉の力」を持って、経営理念やUSPを策定することが大切です。中小企業では、経営理念やUSPがなかったり、あっても形骸化しているケースもあります。そこで、就業規則の策定に併せて、経営理念やUSPを改めて見直したり、策定することも提案しています。

昨年、「経営理念だけに特化して策定」して頂きたいという珍しいコンサルティングをさせて頂きました。クライアントは、創業50周年を迎えるにあたり、会社全体となって、経営理念を見直して、次なる50年に繋げていきたい意向がありました。

経営者から末端社員まで共通の価値観であり行動指針にもなるのが、経営理念です。外部環境や内部環境を分析したり、言葉一つ一つを選びながら、本格的に経営理念を策定していくこと。大変、難しいことであることを痛感しました。

今回、経営理念を策定させて頂いたクライアントの行動指針の中に、下記の言葉が入りました。

  • 「笑顔」

お客様を「笑顔」にするようなサービス。お客様に提供することはもとより、社員の一人一人が「笑顔」でいること。経営理念に伴う行動指針の中に入れたのです。

小生が策定する中小企業向けの就業規則には、経営理念を記載することをご提案しています。最近、弊社のクライアントでは、経営理念、USP、行動指針の中に、「笑顔」というキーワードが入ってくることが増えています。

評価制度の考課要素や着眼点の中でも、最近は、「笑顔」というキーワードを入れて頂きたいという要望もあります。

  • 相手を「笑顔」にさせる。
    自分も「笑顔」になる。

最近のマネジメントの傾向だとも捉えています。

小生は、バブルが弾けた後に社会人になりました。当時、会社内で「笑顔」でいると、下記のように言われていました。

  • 『ニヤニヤするな!』

特に月末になり、ワクワクしながら嬉しそうな「笑顔」でいると、上司から下記のような注意を受けていました。

  • 『月末に歯を見せるな!』

口角を上げて、「笑顔」でいると、『真剣さがない』、『緊張感がない』、『油断している』、などと言われ、怒られる雰囲気なのです。感情を出さずに、真面目な顔をしたり、どちらかと言えば、大変そうな顔、緊張している顔になり、何やら難しそうな顔をして、黙々と仕事をこなしている方が良しとされたのです。

  • 「楽しそう」ではなく、『大変そう』な雰囲気で。
    「笑顔」ではなく、『固い表情』で。

「固い表情」で『大変そう』な雰囲気でいないと、周囲から浮いてしまい、社内で怒られる雰囲気なのです。当時、私は、いつも口角をあげて楽しそうにワクワクしながら仕事をしていたので、会社内で浮いた存在でした。

当時、パワハラという概念もなかった時代。上司の仕事は、下記のことだと思っている管理職が多かった時代。

  • 周囲を怒って、不安を煽り、緊張感を出させること

しかめっ面になり、部下を怒って緊張状態にさせて、部下を落ち込んだ状態にさせたり、悔しがらせる感情にさせて、『気合』を入れて必死にさせることに、上司の存在意義があったと思われていた時代。そして、そんな管理職ばかりだった時代。

当時、不思議だったことがあります。つまらなそうにしていたり、おとなしくして、『死んだ木』のようになって感情を消している人は、怒られないのです。そんな『死んだ木』のような人。会社の士気を下げる迷惑この上ない方のはずです。

一方、口角を上げて、歯を見せて、「笑顔」で楽しそうにワクワク感を出していると、『真剣さがない』などと言われて、叱責の標的にされて、モチベーションを下げられるのです。そのため、若い社員は、すぐに、感情を消しておとなしくなり表情を失って、上司の顔色ばかり窺っているイエスマンになっていくのです。

上司はイエスマンを求めているくせに、そのイエスマンに対して、最近の若い連中は、『自分がない』、『元気がない』、『おとなしい』、などと言っているのです。自分たちが、『ダブル・バインド』のパワハラをしていることにすら気が付いていないのです。

特に、私たちの世代は、「団塊ジュニア」で人口が多いうえに、就職氷河期で有効求人倍率が0.5倍程度。バブルが弾けた不良債権の処理で犠牲になった世代。人材マネジメントのベースは下記なのです。

  • 『嫌なら替わりはいくらでもいる』

人材マネジメントは、短期的な結果を求めて、社会に余りある人材を使い捨てのように。人材を消費させることが企業常識と化した時代です。だから、失ったのです。20年もの時間。最近、つくづく感じます。

失われた20年、酷いパワハラのギスギスした日常の中。

  • 「笑顔」でいることも許されず、
    「笑顔」になることも忘れて。

結局、労働者は疲れ果てて、多くの人が壊れていきました。その結果、少子高齢化に拍車がかかり、GDPは鈍化、生活保護は3.7兆円。デフレ基調の市場が縮小するデフレギャップが常態化した「1億総活躍社会」ではなく、『1億総不安社会』のような状態になったのです。

市場が拡大している右肩上がりのインフレ下で、社会のベースが安定している状況でのマネジメント。社員を「笑顔」でリラックスさせるマネジメントではなく、社員に『不安』を煽り、緊張状態や興奮状態にさせて、『気合』を入れるマネジメントをしていても、特段問題がなかったのかもしれません。

しかし、現在のように市場が縮小して、デフレ化で、社会のベースが不安定な状況でのマネジメント。社員に『不安』を煽り、緊張状態や興奮状態にさせるマネジメントではなく、社員を「笑顔」でリラックスさせるマネジメントが、求められるというより、必要になっているのです。

結局、2年か3年程度の短期的なスパンであれば、一時的に社員を緊張状態や興奮状態にさせて、尻を叩いて、我慢をさせて、嫌な思いをさせながら、一時的に数字をつくることは出来るかもしれません。しかし、長期のスパンで緊張状態や興奮状態を続けて、我慢をさせることは出来ないのです。もっとも、出来る出来ないという議論は不毛であり、誰もやりたくもありません。

少子高齢化で市場が縮小しているわけですから、上司がしかめっ面になり、部下を怒って『不安』を煽り、緊張状態をつくらなくても、普通の状態でも労働者は十分に『不安』な気持ちになっているのです。

現在のような社会情勢のベース化で、普通の状態で「笑顔」になることの方が、むしろ、難しいのかもしれません。「笑顔」になることが難しいから、経営理念や行動指針の中で、敢えて、「笑顔」というフレーズが出てくるとも分析しています。

最近は、アスリートの世界でも、「笑顔」になる訓練や練習を行っているそうです。『気合』を入れた緊張状態や興奮状態より、「笑顔」のリラックス状態の方が早いタイムを出せるそうです。医学の世界でも、「笑顔」は免疫力を高め、『不安』は免疫力を弱らせ、老化を進行させることが分かっています。

失われた20年、酷いパワハラのギスギスした日常の中。「笑顔」でいることも許されず、「笑顔」になることも忘れた方に。

  • 「まずは、口角を上げて、歯を見せて下さい」
    「笑顔」で楽しそうにしているのと、
    『真剣さがない』のは違います。

「笑顔」でいることが難しい時代だからこそ、「笑顔」になり楽しそうにしている人は、会社の求める人物像であり、会社の大切な財産でもあります。何より、「笑顔」は社会の財産でもあると思うのです。

作成日:2017年2月6日 屋根裏の労務士

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