コラム Column

「技術や能力は、どのようにして受け継がれていくのか?」

先月、最後の上司だった部長と10年ぶりにお会いしました。私は、これまでメルマガで、度々、上司のことを取り上げています。実は、全員が別の人です。

私は、本当に運が良かったと思います。全くタイプの違う、別の能力を持った良い上司に巡りあえたからです。この部長と直接会うのは、実に10年ぶり。何となく疎遠になっていて、お会いしていなかったのです。

部長は還暦を迎えましたが、元気に満ち溢れていました。現在、私と過ごした事業部ではなく、別の事業部を統括。まだまだ現役でバリバリ頑張るので、年金はあまり関係がありません。今後、請求漏れがないように、アドバイスさせて頂きました。

社内の人事部にも、ライフプランの相談担当者がいるようです。部長自身も書籍を読み込んだり、年金セミナーに参加したり、相当勉強していました。

この部長は、恐ろしいマニアな能力をもっていて、とにかく研究しだすと熱を入れだす、凝り性なのです。今回も退職にあたり一連の社会保険を勉強していく中で、何か違和感を覚えたようです。そこで、凝り性のマニアな私に、相談した方が良いと思ったようです。

私が、凝り性でマニアなのは、血筋もあります。制作活動では、この部長から影響を受けたのが大きいようです。そのことに、私は、会社に在籍していた当時は、全く気が付いていませんでした。会社を辞めてから、たくさんの大切なことに気が付きました。その一つが次のことです。

  • 「上司から伝承される能力」

部下は、上司から様々な影響を受けます。私の感覚だと影響というより伝承です。単なる知識などの形式知ではなく、「何かコツ」のような「暗黙知の伝承」。さらに言えば、すべて生み出す、ベースの力となる「能力の伝承」です。

部長は、元々、根っからの技術屋で商品開発部のトップで技術全体を統括。技術士を筆頭に、建設・不動産の資格を山のようにもっていました。部長は単なる資格マニアではありません。当然、実務にも長けていて、その分野では「悪魔的な力」を持っています。

部長はコテコテの技術屋ですが、私とは商品開発の技術部門で、一緒だったのではありません。これから新設していく本社企画の営業部門で一緒だったのです。私は、部長の強みである専門分野については、特段、教わっていません。商品開発も、具体的なやり方や方法について、何一つとして教わっていません。

しかし、本当に不思議なのですが、この技術屋の部長と一緒に仕事をしてから、商品を開発していく、「何かコツのようなもの」が身についていたのです。当時は、全く気が付いていませんでした。

会社から用意された既存のコンセプトではなく、新しいコンセプトでの設計思想。その設計思想を形にして、商品としていくこと。新しい概念は定義化。全体のコンセプトから一つ一つを地道に、検証しながら創り込んでいく。新しい技術を積み上げていき、実現可能性を見出し、具現化していく一連の作業。

上記を遂行するための能力や技術は、マニュアル的な形式知ではなく、何か日々積み重ねてきた「暗黙知によるコツ」のようなものでしょう。当時は、それらが強みとなる能力だとは思ってもいませんでした。

部長の前職は、建設コンサルタント。いつも、新しい技術を追求し、国民にとって重要な社会資本であるインフラをつくり、運用していくのが使命です。社会資本の導入効果を踏まえて、経済効果や経済厚生の余剰分析と提案をあらゆる角度から徹底的に行うのです。その経験が影響しているのでしょう。

部長が制作していくものは、ひとつひとつが新しい技術を追い求める研究の対象であり、何か力強いのです。ひとつの制作活動を通じて、商品化のベースや枠組みをつくり、制度や仕組みそのものに大きな影響を与える雄大さがあるのです。一方で、あらゆることを徹底的に突き詰めて考え、シミレーションをする緻密さも併せもつのです。

部長本人も、その強みに全く気が付いていません。それは、社会資本を整備する建設コンサルタントの部長にとって、空気を吸うようなことであり、意識の外。当たり前のように、やっていたからなのです。

私も、そんな当たり前の空気の中で、部長の影響を受けて、「何か暗黙知」を伝承し、不思議と何かDNAのようなものを吸収し、同じ空気を吸う中で、何か技術屋の「悪魔の力」を得てきたのでしょう。

いつの時代もそうやって、伝承してきたのだと思います。歴史というのは、そうやって幾重にも幾重にも積み重ね、発展してきたのでしょう。

  • 誰かが身につけたものを、他の誰かが影響を受けて、その能力や意志を受け継いで、それらをヒントにして、何かに応用させて発展してきた。

そうやって、今日までやってきたのでしょう。そして、また、そうやって受け継いでいくのだと思います。

10年ぶりに、お会いした部長に、「部長から継承されていた能力」について話しました。多分、この技術屋の部長と一緒に仕事をしていなかったら、「経営労務の制度構築と導入、運用」を手掛けるベースの能力は、無かったでしょう。現在している会社経営に関わる、労務の相談はしていなかったと思います。

「制度構築のコツ」のようなものが存在することすら、知る由も無かったと思います。他所から何かを持ってきて、それに何か用を付け加え、相談している程度のことをしていたでしょう。恐らく、法律のチェックをして、規則や規程の条文を書く、法律相談の代書屋だったと思います。

部長とは、進むべき道は違います。
しかし、何か共通に繋がっている、波動のようなものを感じていました。

部長は、お酒を飲みながら、嬉しそうに、一言つぶやきました。

  • 「そうやって、引き継がれていくのだろうな。」
    「本当に、不思議だなー。」

作成日:2012年3月26日 屋根裏の労務士

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