コラム Column

「カフカ作品で考える労務の対応!」~前編~

リーマンショックから4年、東日本大震災から、1年半が過ぎようとしています。2万5千人もの死者を出し、あれだけの物的な損失を伴った東日本大震災。すべてを破壊する地震と津波の自然の脅威。

しかし、各種企業調査統計などのデータを見ていると日本全体における業績の落ち込みは、4年前のリーマンシックの方が、断然大きい。金融システムの崩壊パワーによる、実態経済を破壊する恐ろしさを、何か改めて分かった気がします。

当時、経済情勢の悪化や貸し渋りにより、倒産が急増。幸いなことに、弊社のクライアントで倒産となった企業はありませんでした。皆様と運命共同体である小生は、皆様の経営手腕に感謝するばかりです。

当時、連日のように、希望退職や人員削減、労働条件の変更などの対応はしていました。恐らく、当時、日本のほとんどの企業が、何らかの対応に迫られていたことでしょう。人員削減における一連の対応をしているとき、「ある作家の世界観」を思い出したと言っていた方が数名いました。

  • その作家の名は、「カフカ」。

コラムを読んで頂いている方の中で、そのことを思い出した人がいると思います。実は、上記の発言をした人は、貴方一人では無かったのです。

退職して頂く方と会社との心理戦。それを、まるでカフカの作品で描かれた、「城」の世界観と言っていたのです。

「城」という作品は、カフカの長編小説。長編ではありながら、未完成で、物語は、完結されていません。「城」という作品は、内容を伝えにくい作品です。本のあらすじは省きますが一言で言えば、カフカは、下記のことを描きたかったようです。

  • 理由をつけて、居座り続ける人間のあつかましさ

  • 居場所を無くし続ける周囲の人間心理

この作品でカフカが描きたかったのは、主に人間のあつかましいエゴイズムでしょう。この主人公は、周囲が主人公の存在を不要とするコミュニティーの中で、とにかく、しぶとく居座り続けるのです。ある意味、精神的に強い主人公なのです。

カフカが、この「城」で描いている精神的に強い主人公と対照的な主人公がいます。それが、カフカの代表作である、「変身」の主人公だと思うのです。

「変身」は、有名な短編小説です。多くの人が読んだことがある小説だと思います。ある朝、目が覚めると突然、自分が、虫になってしまい、家族のお荷物というより、厄介者になってしまうのです。

「城」の主人公と違い、「変身」の主人公はとにかく弱い。弱いというより、理由もなく、突然、おぞましい姿の虫となり、何も出来ないままに、無残な末路となる話です。

カフカは、「城」と「変身」で、全く対照的な主人公を描きながら、ある共通の想いを描こうとしています。それは、下記だと思います。

  • 居場所が無くなる主人公と
    周囲を取り巻く人間心理。

これは、労務の相談にも通じてものがあると思います。労務の相談を受けていると、カフカ作品の世界観に通じるような対応もあるのです。

その対応とは、「城」の主人公のようなあつかましいエゴイズムの人間に対する応対だけではありません。

「変身」の主人公のように、昨日まで、会社の大黒柱だった人が、突然、周囲の負担となってしまう立場に立たされ、会社は、その対応をしていなかくてはならないこともあるのです。

このようなケースが起きた場合、法律論を超えた、より難しい労務の判断を迫られることになるでしょう。また、最近は、このような難しい判断を会社は突き付けられ、一定の対応を求められることは決して珍しいことではありません。

人員削減という問題だけあげても、近年は、これまで、会社の中心だった方が、突然、人員削減の対象者になることすらあるのです。対象者本人からすれば、状況を受け止められず下記の発言を言い続けます。

  • 『なぜ、真面目にやってきた自分が対象となるのか?』

  • 『なぜ・・・なのか?』
    『なぜ・・・なのか?』
    『なぜ・・・なのか?』

大規模な人員削減のプロジェクトが起これば会社は、たくさんの『なぜ?』に紳士に受け止め、きちんと返答していかなければいけません。しかし、対象者が心の奥底で求める、『なぜ?』の質問に、満足し得る形式知の返答なんて、本当は無いのです。

リーマンショックのような世界危機は経営者が、想定していた事態ではないでしょう。真面目にやってきたのに、『なぜ?』と言いたいのは会社も同じなのです。

しかし、会社はこの事態を含めて経営責任を問われ、厳しい労働法の下で、現場で解決を図っていくことが求められるのです。正直、リーマンショックのような金融危機は、自分達の日々の努力とは関係がないところで突然、事故のように起きて襲ってきたことでしょう。

近年の不透明さや不安感は、この自分達の努力とは、関係のないところで突然、襲ってくる事故のような不確実性の恐怖があることだと思います。

そして、この事故のような出来事は、決して他人ごとではなく日常のすぐそこで起こりうることだと誰もが感じていることだと思うのです。

その不確実性の恐怖とは、ある朝、突然、おぞましい姿の虫になってしまう、カフカの描いた世界の様。

カフカの作品は、読んでいても何か希望が湧いてきたり、モチベーションが出てくる、人生の前向きな話ではありません。しかも、カフカは、作品を通じて何一つとして解決策を提示していません。

しかし、カフカの作品は、不透明で混沌とした現代の社会を生きる中で、人間心理の深層を知り、立たされた状況を知りえる何かヒントとなるような気がするのです。

作成日:2012年9月10日 屋根裏の労務士

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