コラム Column

『役に立つ』という言葉は魔物

毎年10月の時期になると、小生は日本人として、ワクワクしながら、期待して楽しみにしていることがあります。その一つが下記です。
  • 日本馬が凱旋門賞で優勝すること

今年の凱旋門賞は、JRAが日本国内で初めてとなる、海外競馬の勝馬投票券発売を実施。凱旋門賞には、日本馬としてダービー馬・マカヒキが挑戦。しかし、欧州馬の壁は、まだまだ、高く、厚いようです。結局、マカヒキは、見せ場の一つもつくることが出来ないまま、14着に惨敗。

小生は、馬券の購入はしていませんでしたが、ワクワクしながら応援していたので、大惨敗にがっかりです。そんなワクワクしていた凱旋門賞より、毎年10月の時期になると小生が、もっとワクワクして、期待しているのが、もう一つの下記です。

  • 日本人がノーベル賞をとること

今年は、「生理学・医学賞」の部門で、東京工業大学栄誉教授の大隅良典さん(71歳)が選ばれました。大隅先生は、細胞が不要になった、たんぱく質などを分解する、「オートファジー」と呼ばれる仕組みを解明したことで受賞。

既に、大隅先生は、「ノーベル賞の登竜門」と言われる「ガードナー国際賞」をはじめ、さまざまな賞を受賞しています。かねてより、ノーベル賞も時間の問題だろうと言われていました。日本人のノーベル賞受賞は3年連続。アメリカ国籍を取得した人を含めて25人目。医学・生理学賞の受賞は、去年の大村智さんに続き4人目になります。

大隅先生のノーベル賞の受賞を受けて東京工業大学は、当日と翌日の2回、記者会見を行いました。私は、萬里子夫人が同席した2回目の記者会見で、大隅先生の次のコメントが何とも印象的でした。

  • 『役に立つ』という言葉は魔物

今の時代は、何でも、すぐに成果に結びつくことが良しとされている風潮があります。便宜的に、即効性をもった『実用性』を伴うものが重視される傾向があるのです。

企業では、3年スパンどころか、当期のうちに数字を出さないと、まともに評価をされないようなケースがほとんどです。それこそ、契約社員であれば、半年や1年という当該契約期間の中で結果を出さなければ、次の更新はないのですから。

企業でも、社会でも、短期的なスパンで成果を求められ、中長期的なスパンで人材育成を図ったり、プロジェクトを推し進めていくことが出来にくい状況にあります。

  • 短期的な結果主義である成果主義。

社会のあらゆるところに、はびこっているのです。

大隅先生のコメントは、科学の分野のことに関わらず、短期的な成果を求める風潮がある社会全般のことに対して、警鐘を鳴らしているような気がしました。

国は、財政難でもあり、基礎研究を行うための国立大学の「運営費交付金」を約1500億円削減。その代替として、『競争的資金』に対して予算を配分。『競争的資金』は、概して研究の期間が短く、『実用性』が伴う、『役に立つ』成果が求められるプロジェクトに対して予算が配分される傾向にあるのです。

大隅先生は、上記のような現状に対して、次のようなコメントをしていました。

  • 「科学を人間の文化だと思って取り組んで行かなければ、
    ベーシックな科学が死んでしまう。」

大隅先生を含めて、2001年以降の自然科学系で日本人のノーベル賞は16人。アメリカに次ぐ数のノーベル賞を受賞していますが、そのほとんどが、10年から30年前の研究成果。つまり、「過去の栄光」の実績が、今になって受賞したものです。

失われた20年で、短期的な成果を求める成果主義が、世の中の隅々まで、はびこりました。書店にいけば、溢れています。この本を読めば便宜的に、直ちに力が付くような類の本。

今の時代、何かを学ぶ際について、私たちは、「最小限の努力で最大限の効果」を期待してしまいます。私自身も、クライアントの皆様に対して、「最小限の努力で最大限の効果」を得られるようなコンサルティングをしている一面もあります。

概して、労務に関する情報や知恵、ノウハウというのは、すぐに役が立つ、実用的な面が多いものです。一方で、大隅先生がおっしゃるように、長期スパンでの地道な基礎研究は大切。基礎が無ければ応用はありません。

すぐに『役が立つ情報や知識』というのは、概して、すぐに陳腐化してしまう情報や知識でもあるのです。応用的なことは、一回限りで陳腐化してしまうものですが、基礎的なことは、新しい何かのヒントや種になるものです。

近年、社会が日々変わり、複雑化しています。労務の分野は、何かと問題が多いため、次から次へと新しい情報や知識があるものです。それでも、企業や人間の基礎になるようなコンサルティング。

  • 労務の「実用性」という枠を超えた、
    コンサルティング・サービスを提供していくこと。

そのことを目指して、そのマインドを持ちながら日々の業務に取り組んでいます。小生の労務コンサルティング・サービスが、通常の労務の相談・成果を超えて、皆様のビジネスのヒントや考え方の種となること。

小生の労務コンサルティングにおける目標でもあります。そのような一面があると、少しでも評価して頂ければ、何より嬉しい限りです。

作成日:2016年10月10日 屋根裏の労務士

お問い合わせ

電話番号 03-3988-1771 受付時間9:00~19:00(土日祝祭日を除く)

お問い合わせ

コラム

  • 採用情報