「臨界点理論で考える労務管理!」
私は、東海村の原発事故のときに、核エネルギーの「臨界点理論」を知りました。そして、世の中には、この「臨界点」がいたるところにあることに気付いたのです。ある一定の量や状態に達すると、突然、今までとは全く別の状態や世界に変わるのです。例えば、水は「臨界点」に達すると、液体から気体、固体へと全く別の状態に変化させます。
私は、企業経営の様々なところに、この「臨界点」があると思っています。つまり、規模や成熟度の変化により、ある地点で全く別の制度や手法が必要になるのです。私は、クライアントの賃金改制度改定のときに、この「臨界点」を痛感したことがあります。賃金制度の改定を行うときに、詳細なシュミレーションを何度も繰り返して制度を策定します。
弊社のあるクライアントで、1万レコードを超すデータでの制度改定をしたときです。私が作成したオリジナルのエクセルで、シュミレーションをはじめました。そのとき、エクセルがワンクリックの動作指示をするだけで、15分から30分近くも要するようになったのです。最初私はパソコンのスペックの問題だと思っていました。そこで、最新型CPUのパソコンを購入して作業をはじめました。しかし状況は変わりません。画面上でパラパラとゆっくり画面が切り替わり完全にフリーズしていないのは確認できるのですが、とても作業ができる状態ではありません。データが重たくワンクリックが15分から30分近くもかかり、全く作業が進まないのです。マイクロソフトに問い合わせて確認したら、次のことがわかりました。
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エクセルは1万レコードを超えるようなデータベース作業を想定していない。
オペレーションの担当者から、エクセルはデータベースソフトではなく、表計算ソフトであり、大規模データの処理は想定しないという説明を受けたのです。次の打ち合わせまで期限もありますので、仕方なくデータを細分化して作業を続けました。それでも、データが大きくて通常の関数処理での対応には限界がありました。そこで、作業の一つ一つにマクロを設定して処理を続け、一部にはVBAまで設定しました。連日の朝帰りで、何とか打ち合わせの用意を完成できました。その作業をしながら、私は次のことを痛感しました。
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「規模の拡大は、全く別の世界をつくり出し、別の対応が求められる。」
私にとって、この規模の拡大の変化は、次のように感じました。
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「周囲に巨大な壁ができてしまい立体迷路の中にいる感覚」
今まで高い視点からすべてを見下ろせ、確認が出来ていた世界から、突如、周囲に高い壁ができてしまい立体迷路の中を手探りで、コンパスを確認しながら、進んでいる状況でした。実際の作業でも表計算ソフトからデータベースソフトへの転換が求められ、これまでの対応とは全く別の手法が必要になったのです。そこは、まるで別世界に入り込んだ感覚でした。
労務コンサルティングをしていると、いたるところに企業規模の変化に伴う「臨界点」があることに気付かせます。零細企業から中小企業、中小企業から中堅企業、中堅企業から大企業と企業規模が変化する中で、相談を受けていると「臨界点」の変化に応じた対応や新たな制度構築が必要になってくることを痛感するのです。
規模の変化に伴う質の変化を幹部や社員で、気が付いていない人もいます。実態社会の組織では、同一角度の『相似形』に考えられる拡大または縮小した関係では形成していないのです。規模の拡大や成熟度に応じて、別の性質が伴う組織体に変化するのです。
昨今、M&Aにより、突然会社規模が2倍、3倍に拡大することがあります。一方、大規模なリストラで、規模が縮小することもあります。徐々に規模が大きくなり、突然「臨界点」にいたる企業もあります。そのときに、規模の変化が、組織の性質自体を変化させる「臨界点」があることを強く意識して、必要な対応をしていくことが大切です。企業労務の舵取りをするうえで、この概念は極めて大切な考え方なのです。私も、「臨界点理論で考える労務管理」を今後、定期的に取り上げていきたいと思います。
作成日:2011年2月7日 屋根裏の労務士