「民主主義と労務管理!」
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「報酬を受ける目的で行う労働勤務」
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「企業で、労働力の使用・管理に関する事務」
上記は、私は、「労務」を次のように捉えています。
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「会社と働く人との信頼づくり。」
上記は、弊社のホームページのフラッシュの最後に出てくるメッセージです。「労務」は、社会保険労務士という自分たちの資格であり、職業の一部にもなっている言葉です。社会保険労務士によって、「労務」についての考え方や捉え方は、様々だと思います。私は、辞書のような『労働勤務』や『労働事務』という意味で、「労務」を捉えていません。私は、「組織運営のための信頼づくり」を「労務」と捉え、事業ドメインに置いています。そのため、国家であれ、企業であれ、小さな集まりであれ、何らかの組織があれば、その組織の中で「労務はどのようになっているのか」を考えるような習性があります。
チュニジアのネット革命で発した中東諸国の独裁政権の崩壊に注目しながら、次に、新しい組織として目指すべき民主主義をどのように推し進め、どのように国民と信頼関係を構築していくのかに注目しています。つまり、新しい組織への変遷とその中の「労務」についてです。私は、何でも合議制の民主主議で決めていくことが良いとは考えていません。一定の成長段階の過程では、独裁的な側面の必要性も感じています。
イラクでは、フセイン政権がアメリカを中心に倒されました。アメリカは、GHQ体制で日本を民主主義にした手法で、イラクにも暫定統治機構のCPAを置き民主主義を導入しようとして失敗しています。その原因を中東やイラクに根深くある宗教観の問題をあげて説明しているメディアも目にします。しかし、私は、次のような捉え方をしています。
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民主主義は、制度をつくれば導入できるものではないこと
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言論の自由がある民主主義を運営、実行していく難しいこと
理念的な考えで、民主主義を外から制度を持ってきて導入することは、出来るかもしれません。しかし、民主主義を根付かせ運営していくことは、簡単なことではないのです。当たり前ですが、どの国家でも、いきなり民主主義が生まれた国家などないのです。社会が成熟する過程の中で、組織の歪みや矛盾に対して、段階的に民主主義が芽生え、育っていくのです。自然と「育っていく」だけでなく、議論を重ねて「育てでいく」ものでしょう。
日本は、敗戦後アメリカから、棚ボタで民主主義をもらったため、民主主義を空気のようなものだと指摘する人がいます。選挙に行かない人が多いのも、その一つだと言ったりしています。しかし、私は、そのような捉え方をしていません。
日本では、近代国家が誕生する前から、民主主義のベースがあり、時代の権力者は、組織運営の信頼づくりである「労務」を知っていたと捉えています。戦後、アメリカから一方的に貰ったものだとは、捉えていないのです。日本ほど、権力者が国益を独占せず、市民から酷い搾取もしていなかった国家は、歴史上にないでしょう。どの幕府も民衆との信頼関係を構築するための一定の政策をとっています。マクロ的に捉えて、自分の力を誇示して富を集中させ、ろくな教育も与えず愚民化政策をとり、横暴な独裁搾取などしていた政権はないのです。さらに、民衆もそんな横暴を許してきません。一揆が日常的にあったのは、民主主義のベースがあったからだと捉えています。
江戸時代は、士農工商の身分社会でしたが、地方自治が行われていました。幕府は、貧困に追い込むような法外な税金もとっていませんでした。武士が今でいうと、「官僚兼政治家」だったわけですが、特段、富を得ていたわけでもなく、たいして贅沢な暮しもしていないのです。
意外と知られていませんが、江戸時代の農民の労働時間です。1日の労働時間は、何とたったの4時間程度。今の半分程度の時間しか働いていなかったのです。その他の時間は、結構自由に大衆娯楽などをして楽しんでいたのです。北斎を筆頭に、あちこちですばらしい大衆文化が生まれたのが、何よりの証拠でしょう。大衆文化が、これほど育った国は、世界にないのですから。身分制度が確立した中でも、幕府はひどい搾取などしていなかったのです。そこには、私は信頼づくりのための「労務」が存在していたと思うのです。
確かに、日本には、戦後まで近代民主主義の制度はありませんでしたが、そのベースとなる民主主義を受け入れる文化は、根強くあったと思います。そのため、文明開化の明治維新も戦後の民主主義も制度として、空気を吸うようにスムーズに受け入れられたと捉えています。
中東諸国で連鎖して起きているリーダーなきネット革命。民主主義のうねりの中で、独裁政権を倒した後の民主主義を生み出し育てていくことになります。課題は山積してくると思います。その中で、中東の文化にあった民主主義を「労務」の視点を持ちながら、育てていくことに期待しています。
作成日:2011年2月21日 屋根裏の労務士