「なぜ、企業の労務で、信頼関係が必要なのか?」
私は、子供の頃、『核の抑止力による平和』という考え方を理解できませんでした。どう考えても屁理屈に過ぎない。核兵器なんて、使ってはいけないし、使わせるはずがない。それならば、無い方がいいに決まっています。教師も、『核の抑止による平和』なんて、子供でも、すぐに間違いだとわかる愚かな考えだと教えてくれました。
大学生のときに、経済学で、「囚人のジレンマ」というゲーム理論を知りました。その中に核兵器開発の例が出ていました。「囚人のジレンマ」を理解したとき、『核の均衡理論』という屁理屈を理解することが出来ました。囚人のジレンマとは、次のことです。
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個々の最適な選択が、全体として最適な選択とはならない状況に陥る
ある事件で容疑者A、Bが逮捕される。
二人は、別室で取調べを受けて、次のことが言い渡される。
- 共に信頼して黙秘すれば、懲役2年
- 一方のみが自白して、一方が黙秘であれば、
裏切り自白した一方のみが懲役1年、
信じて黙秘した一方が懲役10年 - 共に裏切り自白すれば、懲役5年
個人の最適な選択は、2番目の選択です。自分が裏切り自白して、相手が信じて黙秘するケース。しかし、それは、相手にとっても同じことになります。個人が最適な選択をした結果、お互いが裏切り自白することになり、3番目の懲役5年に落ち着くことになります。互いの戦略が互いの予想と一致して均衡。この状態が経済用語で、ナッシュ均衡です。
この場合、最も良い選択は1番目の選択。「共に相手を信じて黙秘すること」です。最も、最適な選択肢1があるにも関わらず、個人が利得を考えて最適な選択をした結果、1番目の選択をすることが出来ないジレンマが起こるのです。
個人に二つの選択。協力と非協力、信頼と裏切りなどの選択肢が与えられた場合、二人の人間が遭遇するジレンマ。
これを核開発で考えてみます。核開発では、A国とB国が両方とも核兵器開発を止めれば最も良い平和が維持できます。しかし、一方のみの国が核を有すれば利得が生じるために、結果として双方が開発を続けることになり、両国が核を手放す選択が出来ないのです。
「囚人のジレンマ」は、核開発のことだけでなく、近年の社会や制度の様々な矛盾に対する説明で取り上げられています。
私は、企業の労務の中にもジレンマがあると考えています。双方にとって最も良い選択肢。「双方信頼による1番目の選択」をすることが出来ずに、結果として、『3番目の双方裏切りの選択』に落ち着くことがあるのです。
囚人のジレンマは、あくまでもゲーム理論であり、下記の前提があります。
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お互いが話し合いを行うことが出来ない状態。
ゲームと違い、現実世界では話し合うことが可能です。同じ企業内でのことであれば、話し合いが出来やすい状況といえるでしょう。また、どんなに話し合いを通じても、何らかのことを約束して、相手を信じることも必要なのです。現実的な対応として約束には、書面に出来ないことも多いでしょう。そのために、一層双方の「信頼関係」というものが大切になってくるのです。
「信頼関係」が破たんすれば、いつも個人の利得を最大限に考え行動する3番目の選択肢になったり、何も出来ずに、ジリ貧状態で停滞することになるでしょう。「信頼関係」の破たんは、ゲームからの離脱や終了も意味するでしょう。
従業員の立場では、自らの意思による退職。企業の視点からは廃業。ゲーム自体の強制終了である倒産のリスクもあります。いずれにしても、「信頼関係」の破たんは、現在のゲームに参加している人達との未来を築く関係にはなりません。「信頼関係」の構築こそが、勝ち組企業への組織活動の礎なのです。また、私はそのために、労務があると考えています。
囚人のジレンマは、合理的な行動を考える経済学のほかに、心理学や社会学などからも研究がされているゲーム理論です。企業活動の多くに、ジレンマは存在しています。話し合いを持つことができ、双方の「信頼関係」が築くことができれば、最適な選択を導くことができるという教訓的なゲーム理論と言えるでしょう。
作成日:2012年4月23日 屋根裏の労務士