「通勤手当を社会保険の賦課対象外にするメリット!」
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「社会保険料・労働保険料の賦課対象となる
報酬等の範囲に関する検討会」
現在、社会保険料の対象となる報酬について、次のような規定になっています。
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「賃金、給料、俸給、手当、
賞与その他いかなる名称であるかを問わず、
労働者が、労働の対償として受け取るすべてのものをいう」
通勤手当等の各種手当についても、報酬と位置付けられ、保険料算定の基礎として取り扱われています。その一方で、所得税法における通勤手当は、1ヶ月10万円までは非課税所得とされているのです。つまり、社会保険法と税法において、算定対象の考え方に違いがあるのです。
以前から、通勤手当の高い社員からは、通勤手当を社会保険の対象とすることに不満が多くあがっていました。通勤手当の実費弁償的な性質を考えれば、保険料の対象となるのは、おかしいと言わざるを得ないでしょう。
このように現況を踏まえて、厚生労働省では、次の検討会を設置して、議論を開始したのです。
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「社会保険料・労働保険料の賦課対象となる
報酬等の範囲に関する検討会」
社会保険法と税法で、報酬等の範囲が異なることについて検討を行い、必要に応じ所要の改正を行うことになります。
現在行われている議論は大きく次の内容。
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保険料収入の減額の影響
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各種給付金の減額の影響
厚生労働省は、上記に関して次のような試算しています。
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通勤手当が標準報酬総額に占める 0.3%程度の引き上げが必要。
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厚生年金に与える影響 3%低下した場合の年金額
基礎年金 ▲1,967円
厚生年金 ▲6,929円(標準世帯) - □
年金額を低下させないためには、年金の支給水準を引き上げる制度改正が必要。
この場合の財政影響については、制度設計を行った上で、一定期間の収支均衡が図られるよう 財政計算を行う事が必要。
主に、取り上げられているのは、保険料収入と給付額の件です。しかし、重要なことが抜けていると思います。それは下記です。
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「事務コスト」の存在。
毎月、必ず発生する給与計算や諸手続き。それらを煩雑にしているのが、通勤手当の存在なのです。
実際に、給与計算や社会保険事務手続をしている方は通勤手当を賦課対象外になっていれば、どれだけ事務量が軽減されるかを日々、実感しているでしょう。
特に、大手企業において、通勤手当を割引のある定期で、購入させていることも多いと思います。
この場合、定期購入に伴い、社会保険料や給付の計算のために1ヶ月分の給与に割り振りする事務が発生します。
一定規模の人数になると、この作業が膨大な手間。特に、バスも定期購入させている企業では、3か月定期。電車代とバス代を分けて、個別に合算したりする手間が出てきます。
入社の時期や人事異動に合わせて、各種社内ルールを作る必要もあります。6ヶ月定期購入の起算日を設けたり、定期を払い戻す時期を特定したりなどなど。
定期代を月数で控除して、1ヶ月分にしたとき給与ソフトで自動に計算できる機能もあります。しかし、端数処理の対応などなどで、その振り分け月の設定が発生したり固定給変動に伴う月額変更の確認事務が発生します。
月額変更の確認は、正確性を求めれば、どうしてもソフトだけでは対応できないのが実情。一定規模の社員人数になれば、様々な例外事項に対する処理のオンパレード。何らかの形で、原始的な人海戦術で、人による目視確認をする必要性が出てくるのです。
また、成長段階にある入社、退社の多い企業が経費の削減を考えて、定期購入をはじめた場合、かえってマイナスになることも珍しくありません。
定期代の返還をめぐり、返却されずに、とりっぱぐれたり、換金作業の手間や事務連絡の齟齬が発生したりすることが多分にあるのです。各種確認連絡の膨大な間接コストが発生するのです。
上記は一例にすぎません。給与計算や社会保険の事務担当者は毎月毎月、厳しい計算期間の中で、時間に追われ、例外事項の発生に対処しながら処理作業をして、何とか間に合わせているのが実情でしょう。
正直、社会的な経済厚生から考えた場合、「経済余剰の厚生」を生み出しているとは言い難い。
通勤手当が社会保険の賦課対象外となればだいぶ事務量は軽減されるはず。3%前後の影響であれば、制度変更の運用内容の変更程度で吸収出来てしまうと思います。
制度の運用に伴う事務コストの存在。事務コストの発生が、もっと議論にあがってきても良いような気がするのです。
作成日:2012年10月22日 屋根裏の労務士