「厚生年金基金の解散案!」
現在、厚生年金基金の加入者は437万人、OBである受給者を含めて730万人にも影響を与える内容です。
今回の基金の対応は、単に問題を取り上げているだけではありません。具体的な改革の素案があげられています。
AIJ投資顧問の一連の不祥事もあり、現在、基金の半数が代行割れ、1兆1千億円もの損失。放置しておけば、連鎖倒産の最悪の事態に陥りかねません。もはや、基金の解散はやむを得ないところでしょう。
一方、財政の健全な基金からは、すでに猛反発が出ています。与野党含めて、慎重論も多く今後の対応には目が離せないところです。
クライアントからも、基金のことについて相談されることが増えてきました。脱退などに踏み込んだ、かなり具体的な相談もありますが、多くは、次のような漠然とした質問です。
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「基金の解散などが報道されていますが、弊社では、どのようになるのですか?」
現行では、加入基金に関する情報を集めて成り行きを見守り、静観しているしかありません。法の力による強制解散が出ているのですからその成り行きを見定めるべきでしょう。
今回の解散案は、大きく3つになります。
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「自主解散を促す」
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「第三社機関を設けて、清算型解散をさせる」
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「財政健全の基金は、別の企業年金制度に移行させる」
上記について、ひとつひとつ説明します。
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「自主解散を促す」
代行割れを起こして、財政難に陥っている基金には、最初の5年間で集中的に廃止させることを検討。具体的な施策は次の3つ。
- 返済期間の延長
- 返還額の一部減額
- 連帯債務制度の廃止
10年のうち最初の5年間は、返済期間を延長させて、代行部分の返還額を軽減する措置や同じ基金に加入する企業が、破綻した際に、他の企業がその分を連帯して支払う義務を撤廃する特例措置を設けます。
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「第三社機関を設けて、清算型解散をさせる」
現行でも、財政状況の悪い基金に対して、国が強制解散をさせることが出来る制度はありました。しかし、実際、これまで一度も実行されたことがありません。すでに年金受給をしている方々への調整もあります。現実的な対応として、現行の解散命令は、絵に描いた餅だった言えます。
それらの反省を踏まえて、国は、代三者委員会を設置。清算型解散をさせる制度をつくり、現実的な対応をさせようとしているのです。
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「財政健全の基金は、別の企業年金制度に移行させる」
財政健全な基金は、代行部分を国に返還させて上乗せ部分は、別の企業年金に移行させることを検討しています。
確定拠出年金制度、確定給付型年金制度などへの移行です。また、企業によっては、基金の廃止とともに、企業年金を廃止する選択も出てくるでしょう。
いずれのケースでも、基金の廃止となれば、すでに年金給付を受けている方に、多大な影響が出てきます。受給者の反発は必至。
加入していた基金により、給付額は様々ですが国は、平均して月額7,100円という試算をしています。
受給者にとっては、既得権に基づく不利益変更。その調整には、数々の説明責任が出てくるでしょう。
さらに、基金に加入していない企業の方々も基金の解散は、他人ごとではありません。
返済金でも足りないケースも、既に想定されています。この場合、通常の厚生年金の資金で穴埋めすることも検討されています。
つまり、私的な基金の運用失敗のつけを上乗せ部分の給付がない方々にも、負担して頂くことになるのです。恐らく、保険料の増額という形で、何らかのしわ寄せが想定されます。
基金に加入していない企業は、概して、加入している企業よりも零細である傾向にあります。他の企業の私的な運用の失敗で、負担を強いられることになるのです。こちらの方も、反発は必至でしょう。
基金の解散は、あちこちで、調整や説明責任が問われてくることになります。
解散が現実的になれば、加入企業は、社員への説明はもちろん、今後の対応について、膨大な対応が求められてくるでしょう。
厚生年金基金のような『代行部分』による公的年金と私的年金の混合した、企業年金制度があるのは、実は日本だけ。
バブルが弾けるまで日本には、次の神話がありました。
『土地も株価も上昇する。』
『今日より、明日は必ず良くなる。』
右肩上がりの時代では、『代行部分』の資金を持つことは、いわば、打ち出の小槌を持つようなもの。今の低成長の時代では、とても通用しません。
深刻な基金の問題。このことは、現行政権だけでなく、前政権にも責任があるのは言うまでもありません。
作成日:2012年11月5日 屋根裏の労務士