『民主主義のひな形』
刑法では、外国に対して、私的に戦闘行為をする目的で、予備または陰謀をした者について、3カ月以上5年以下の禁錮に処すると定めています。
イスラム国をめぐっては、欧米などからも、戦闘員として、多くの若者が合流していると報道がされています。戦闘員を経験して、思想を植え付けられた者が、帰国後に、テロを引き起こす心配があるとして、世界の脅威となっているのです。
そんな脅威を抱えた状況の中、9月23日、ついに、アメリカが、「イスラム国」への空爆を始めました。今回の軍事発動には、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ヨルダン、バーレーン、カタールの中近東の5カ国も参加。
空爆によって、問題が解決するとは、到底、思えません。そのうち、地上軍の派兵を出すことになりかねない展開です。
アメリカは、イスラム国に対して、国連軍として攻撃をしたかったようです。しかし、ロシアの反対で、国連軍としての攻撃は出来ません。今後、有志連合の多国籍軍にしたいと、考えているようです。
一方で、イスラム国によって、フランス人やアメリカ人の人質を「処刑」する残虐な映像が、インターネットにより、流されています。ネットにより、欧米諸国を「脅す」という、新しい形のテロ組織。
イスラム国は、イスラム教・スンニ派の過激派テロ組織。組織の人数は正確には掴めていませんが、2万人とも5万人とも推測されています。私は、イスラム国の報道を目にする度に、次のことを感じています。
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人間の価値観は、すぐには、変わらないし、変えられないということ。
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その地域、その組織に応じた、やり方、有り方があるということ。
イスラム国が、出来た背景や歴史的な経緯。企業の労務にも、通じるものがあると思います。
ご存知の通り、イスラム教は、大きく、シーア派とスンニ派の宗派に分かれます。カリフの正統な後継者を巡り、1000年以上もの間、争っているのです。
イスラム共同体では、宗教指導者と政治的指導者が、分かれていません。政教一致の体制をとります。その最高権威者である指導者が、カリフ。
ムハンマド没後、正統カリフ時代と言われる、4代目・カリフまで。揉め事を抱えながらも、分裂することはありませんでした。ところが4代目のアリーを境に、大きな争いが起こります。争いは、イスラムを二つの宗派に分裂されます。分裂した二つの宗派、シーア派とスンニ派。二つの宗派の違いは大きく、次のことです。
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シーア派・・・カリフは、ムハンマドの子孫であるべきだと主張する派。
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スンニ派・・・カリフは、子孫の中からではなく、話し合いによって、
皆から選ばれた者がなるべきだと主張する派。
イラクのかつての大統領・フセインは、スンニ派でした。実は、イラクはシーア派が、国民の6割以上を占めています。少数派だった、スンニ派のフセイン。実は、フセインは、シーア派やクルド族を、それなりに、上手く、治めることが出来ていたのです。もちろん、独裁政権で、国際的にも、国内的にも問題が山積していたことも、間違いありません。
かつて、アメリカは、イラクに対して、フセイン政権は独裁であり、国民には自由がなく、大量破壊兵器を持っているとして、アメリカの正義の下に、戦争を始めました。アメリカは、戦争で勝利して、フセイン政権を倒しました。アメリカは、イラク国民を解放したといっていました。
フセイン政権が倒れた後。アメリカの思惑通り、親米であり、多数を占めるシーア派のマリキ政権が樹立。欧米流の価値観であり、自分たちの正義でもある、民主主義を、イスラムに根付かせようにしました。
しかし、これが、受け容れられずに、イラクは大混乱に陥っています。そして、そのような中で、出てきたのが、スンニ派過激派のイスラム国。
イスラムの世界には、イスラムの民族性があり、積み重ねてきた長い歴史があります。何より、常識観や宗教があります。一方で、欧米にも、積み重ねてきた 歴史があり、それにより培われてきた常識観や宗教があります。
自分たちの正義である欧米流の民主主義。自分たちにとっては、価値観の根底をなしているものであり、何より、血肉された常識観。
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仮に、それらが、完全性定理により、
証明された、正しいものであったとしても・・・。
人間には、あると思います。
受け容れられないことも・・・。
頭でわかっていても、気持ちが受け容れないこと。人間であれば、誰にでも、少なからず、あるものだと思います。人間とは、ゲーテルが証明した、論理式のようなものではありません。
人間や組織とは、いつまで経っても、未成熟で、原始的なところがあるものです。価値観が違えば、対立するし、派閥もできる。差別やいじめは、どこの世界でもあり、いつまでも無くなりません。ましてや、いつの時代でも、悲惨な戦争が起きています。
人間の価値観や常識観は、すぐには、変わらないし、変えられるものではありません。これまで、培われてきた歴史を理解した上に、その組織や風土に応じた、やり方や有り方を、積み上げて、一つ一つ、築きあげていくものです。
よそから、『民主主義のひな形』を持ってきても、それを消化できるはずがありません。指導者である上の者が、十分に、消化が出来ていないものを、下の者に消化させることなど、出来るはずもないのです。ましてや、力をもって、強制しても、うまく行くはずがありません。当然といえば当然のことです。
欧米流の民主主義を受け容れられない中で、その反動のように、出てきた、過激派組織、イスラム国。
人間や組織には、歴史的な経緯を含めて、その人間や組織に応じたやり方があるということ。中東地域の混乱した状況を見ながら、企業労務の世界に重ねて、人や組織の対応の難しさを感じています。
作成日:2014年10月13日 屋根裏の労務士