「歴史を直視し、未来に向かう精神」
首脳会談を行う前に、合意文章が作成され、それが発表までされました。通常には、ありえない異例中の異例の対応です。合意文章のポイントは、次の4つです。
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尖閣諸島などの東シナ海の緊張状態について
異なる見解を有していると認識し、対話と協議で情勢の悪化を防ぐ。 - □
危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避する。
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政治・外交・安保対話を再開し、政治的相互信頼関係の構築に努める。
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歴史を直視し、未来に向かう精神に従い、
政治的困難を克服することで若干の認識が一致。
合意文章の文言について、新聞各紙の解説を読みながら、次のことを感じていました。
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「外交の知恵」が、凝縮した文言であり表現であること。
誠に、日本と中国、双方の思惑が、複雑に入り組んだ、「外交の知恵」を伺わせる表現の数々です。日中両国が、自分たちの論理や都合で、いかようにでも、解釈できる文言です。
今回の合意書で、日中に横たわる問題の根本が一度に、解決することなど、当然にあり得ません。今回の合意書は、ガラス細工の様なものでしょう。日本は、お互いに、大切なはずの近隣諸国に対して、「歴史認識の違い」で、国家間では、良好な関係になれません。今回の合意書でも、下記の文言が記載されています。
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「歴史を直視し、未来に向かう精神」
私は、歴史認識が一致すること。あり得ないと思っています。何か、一つ事件が起これば、それに対して、それぞれの人が、受け止め方や捉え方が違うのが、当然だからです。ましてや、歴史認識は、違っていて、当然。異なる国で、歴史認識が綺麗に一致することが、そもそも有り得ないことでしょう。民族も国も違うのに、歴史認識が、すべて一致していたとしら、逆に、違和感があると思います。
かつて、2度起きた、世界大戦ですら、戦争が起きた原因。人類は、その原因をはっきりと分かっていません。歴史学者が、様々な学説を出している状況です。これだけ科学技術が発達して、様々なことが解明されているのに、歴史の重大事件に対して、それぞれの国で、全く言い分が異なっているレベルです。
起きた事実は、一つ。しかし、認識の仕方は、様々。その人によって、受け止め方や捉え方が、皆、違うものなのです。同様なことは、企業の労務でも言えることです。
労務問題が、拗れてしまい、外部ユニオンや弁護士が出てくる展開に、なってしまった場合。会社側と労働者側の主張。噛み合うことなどは、通常、ありません。そもそも、話し合いにすら、ならないものです。
お互いが、事実に基づいて、一定の論理や都合、更にいえば、自分の正義をもっています。それぞれが、自分の論理や正義を主張するのは、勝手なことです。しかし、その論理や正義は、簡単には、相手には届かないし、受け容れられません。
ましてや、ユニオンや訴訟など。泥沼の展開に陥った場合。自分の論理や正義が、相手に、受け容れられ、分かり合えることなどは、有り得ないと考えた方が良いでしょう。ユニオンや訴訟などの泥沼の状態になり、お互いに分かり合えることが出来たとしたら、むしろ、そのことの方が、奇跡的なこと。
そんな泥沼の展開に陥れさせないこと。それが、「労務の知恵」というものです。国際間の協議における、戦争をさせない、「外交の知恵」と通じるものがあると思います。
そもそも、何か、事件が起きて、重篤な問題になっていく過程で、過ぎ去った過去の事実認識どころか、現在起きている、現状認識ですら、出来なくなることも少なくないのです。問題が起きて大きくなっていく過程で次々と降りかかる様に、想定外の状況になっていくからです。
私は、まずは、しっかりと経緯書を作成して、会社としての事実認識をするように、アドバイスします。しかし、問題がグチャグチャになり過ぎて、起きていることを客観的に捉え、ドキュメント化することも満足に出来なくなる人がいるのです。
今回の外交で、合意した下記の文言。
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「歴史を直視し、未来に向かう精神」
ガラス細工のような合意なのかもしれませんが、きっかけとなり、はじまりとなる大切な第一歩。「未来に向かう精神」が重要なのは、言うまでもありません。
事実は一つ、認識は様々。この世には、開けてしまうと上手くいかない、「パンドラの箱」が、たくさんあるような気がしています。直視はしても、口に出してはいけないこと。世の中には、たくさんあるような気がしています。それが、「大人の知恵」のような気がしています。
作成日:2014年11月10日 屋根裏の労務士