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「般若心経の苔寺」

京都に紅葉狩りに行ってきました。ここ数年、紅葉が絶好の時期に、タイミングが良く、京都方面の出張が重なり、真っ赤に染まる、秋の京都を堪能することが出来ていました。繊細な楓が真っ赤に染まる、秋の京都の絶景。一度、その美しさを知ってしまうと、何かやみつきになります。

私は、日本庭園を鑑賞するのが、趣味の一つです。庭園に行かない月は、ありません。毎年、都内9庭園の年間フリーパスを購入しています。

都内の庭園でも、今の時期は、六義園で、紅葉のライトアップがあります。六義園は都内の紅葉の名勝になっており、今の時期は、紅葉を愛でる人で溢れています。しかし、東京の楓は、京都の楓の様に、鮮やかな赤に、色づきません。何か、焼けたような赤にしかなりません。

京都の鮮やかに赤く染まる楓。朝夕の寒暖差が大きい、盆地気候の京都で、様々な要素が偶然に重なりあい、奇跡の様に、生み出されるものなのでしょう。京都の紅葉は、異次元の美しさです。圧倒的な楓の数。真っ赤に染まる楓の葉。美しい京の都の寺院を彩り、幻想的な世界をつくり出します。

恐らく、京都の先人たちは、美しく色づく楓を、意識的に植えて、今に伝えたのだと思います。繊細な楓は、京都人の美意識の象徴のような気がします。

今回の旅は、仕事ではありません。そこで、以前から、どうしても一度、訪れてみたかった寺院に行ってきました。京都の寺院の中には、事前に予約しておかないと、参拝できない寺院や庭園がいくつかあります。事前予約制のある寺院や庭園には、一生のうちに一度は、訪れてみたいところです。

今回、西芳寺こと、通称、苔寺を参拝してきました。苔寺は、世界遺産に登録されています。苔寺は、嵐山エリアです。嵐山からバスで南に、15分ぐらいの場所です。

事前に予約が必要です。予約で時間指定までは出来ません。希望日を記載して、往復はがきで申し込み、先着順で拝観が決まります。行きにくい場所にあるためか、ガイドブックには、余り大きく取り上げられていません。さらに、境内には、駐車場がないため、団体のツアー客も、見かけません。

苔寺は、庭園内を約120種類の苔が覆っています。まるで緑のじゅうたんを敷き詰めたような美しさです。鬼才の庭師、夢窓疎石による渾身の作品。庭園は上下二段構えの造り。上段には枯山水の庭。下段には池泉回遊式の庭を配置。

その見事な造りは後の日本庭園に、大きな影響を与えてきました。あの東山文化を生み出した天才、足利義政も銀閣寺の造園に、参考にしたそうです。アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズが、お忍びで家族とともに苔寺に、よく訪れていたというのは有名な話です。

拝観料は1人3,000円。拝観料としては、かなり高めの金額です。「般若心経」を写経して、写経に願い事を書いたものを、祈りを込めて本尊に奉納してもらえます。住職からは、「般若心経」のお経を読んで頂けます。筆を持って、書道をするなんて、中学生の時に、お正月に、書初めをして以来のことです。

今回、苔寺を参拝するにあたり、事前に、「般若心経」を勉強してからいきました。以前から、仏教哲学の中で、「般若心経」について、体型的に理解して、頭に入れておきたかったのです。(ちなみに、私は、基本的には無宗教です。)

「般若心経」は、日本人には、最もなじみが深いお経。誰でも、一度は、あの有名なフレーズを聞いたことがあると思います。

  • 羯諦羯諦、波羅羯諦、      (ぎゃてい ぎゃてい はらぎゃてい)
    波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。   (はらそうぎゃてい ぼじそわか)
    般若心経              (はんにゃしんきょう)

「般若心経」について、たくさんの解説書が出ています。「般若心経」は、理解するのが難しく、何か一度、読んだぐらいでは、簡単に、頭に入ってきません。今回、苔寺を参拝するにあたり、初歩の初歩の簡単な基本書から、読み漁ってみました。

「般若心経」の中で出てくる次の概念。

  • 「色即是空」

「般若心経」の中で、最も強調されているのは、「空」という概念。世の中は、様々な複雑な要因が、からみあいながら、常に移り変わっていきます。古代インドの仏教徒たちは、この変化し続ける世の中の背後には、複雑すぎるがゆえに、人智が及ばない何らかの法則があると考えたのです。

確かに何かあるが、「わかることが出来ない法則」。それを「空」と呼んだのです。「般若心経」は、人間は「空」のもとで生きていると捉えています。その「空」の中で、人間が、どのような心構えで、生きていくべきなのかを説いています。

「空」は、何もなく、空っぽという意味ではありません。人が知り得ることは出来ないが、確かに何かある宇宙の謎のようなものです。「般若心経」は、262文字の短いお経です。西遊記に出てくる僧侶、玄奘三蔵が、唐からインドに仏典を求めて、長い旅をして、頂いた膨大な経典を翻訳したものです。

玄奘三蔵の翻訳がすばらしいのは、「般若心経」を読経したときの「音の響き」にあると言われています。原典のサンスクリットの音の響きを見事に、音写して、翻訳しているのです。

上田敏が、「海潮音」で、ヨーロッパの詩人の詩を日本語に翻訳して、詩集にしたのと同じだと思います。原本の音の響きまで、見事に翻訳に入れているのです。

人間は言葉によって世界を認識しています。しかし、その言葉には、実は限界があります。その言葉の限界を「美しい音」にして、言葉の限界を超えて、伝えているのです。「般若心経」は、お経の意味が分からなくても、音の響きだけでも、感じとることができれば、良いとも言われます。

洋楽を聴くように、雰囲気だけでも、何か、感じ取ることが出来れば、良いのでしょう。日本人は、音に関して、類まれな美意識を持っている民族。日本人であれば、誰でも、虫の鳴き声を美しい音楽として愛でることが出来るものです。「般若心経」も、そんな日本人の音に対する繊細な感受性で、読まれているのかもしれません。

苔寺で、写経しているときに、隣に、白人の方が座って、写経をしていました。不慣れな様子でしたが、筆を持って、硯に墨をつけながら、写経していました。事前予約が必要な苔寺に、意外と多くの白人の方が参拝しているのです。「般若心経」は、英訳がされており、海外でも、静かなブームになっているそうです。

「般若心経」は、自分の生き方を、いつも一段上に、あげていく生き方を、学ぶものです。一回、読んだぐらいでは、実利的に、すぐに身につくというものでは無いのだと思います。それでも、秋の紅葉が美しい苔寺を参拝できて、何か独特な美意識を学ぶことが出来た様な気がしています。

作成日:2014年12月1日 屋根裏の労務士

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