「フランスの休日」・・・後編
実は、フランスに行きたかった一番の目的は美術館めぐりではありません。次のことを分かり、体感しておきたかったのです。
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西洋の『シンメトリー美』とは何か!
フランスには、『シンメトリー美』、すなわち、『左右対称美』を追求した建築物が多数あります。ヴェルサイユ宮殿、シャンボール城、サクレクール寺院などなど。パリのランドマークになる様な建造物のほとんどが綺麗な『シンメトリー美』を追求したものです。キリスト教圏の美意識の根底には、何か、『シンメトリー美』がある様な気がしています。
私は、前職は建築屋でした。今の労務の仕事をするベースも、制度構築や条文をつくるベースには、建築のヒアリングしながら、提案をして、つくり込むというノウハウや経験が大きく影響していると思います。
最後に、本格的な洋風建築の作品を手掛ける機会を頂き、引き渡しをして、建築業は、そこで卒業させて頂きました。設計工期1年、建築工期1年。通常の住宅建築の3倍から4倍近い工期。細部にわたるまで、一つ一つこだわり抜き、打合せやその準備に要する手間は、通常の10倍以上の労力を費やしたと思います。
当時、自分の最後の作品として、何かに取り憑かれた様に、制作作業にあたっていました。魂を削りながら、全身全霊の力を注ぎ込み、ボロボロになるまで、やり切りました。
私の最後の作品となったクライアントの方は、仕事の関係で、ヨーロッパの国々に行く事が多く、美意識の中に、ヨーロッパ建築の影響を強く受けている方でした。基本設計における最初のヒアリングの時に、次の様な要望がありました。
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『シンメトリーの美を追求した
お城の様な邸宅をつくりたい。』
見栄えのある『シンメトリー』の邸宅を構築するために高台にある道路に面した区画の良い土地を購入。各種、打合せを重ねて、私が提案した基本プランは、下記です。
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「アシンメトリー」の外観のプラン
私は、「アシンメトリー」の外観のプランを提案しました。つまり、要望とは異なる「非対称」の外観のプランを提案したのです。VIPのクライアントは、最初のファーストプランのご提案を間違えると、契約にはなりません。
私は、ヒアリングをしていて、イメージを確認する中で、顧客が、『シンメトリー』を求める言葉とは裏腹に、本当に求めている美しさは、「アシンメトリー」の様な気が直観的にしたのです。結局、「アシンメトリーの美」を提案した、私のプランが採用される形になり、設計契約となりました。
私は、日本人の美意識の大きな根底は、下記の様な気がしています。
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『シンメトリー』の美ではなく、
「アシンメトリー」の美
いわゆる、「崩しの美学」です。
例えば、日本庭園は、「非対称」の美を追求したものだと思うのです。日本庭園の道が、曲がりくねった道ではなく、西欧の庭園の様に、幾何学的な直線の道だとしたら、庭園美に、何の情緒も無いような気がします。
書道でも、華道でも、「崩しの美学」がほとんどで、幾何学的な『左右対称美』は、見かけない様な気がします。京都の美しい寺院も、一見すると、『シンメトリー』の様な気がしますが、風景まで含めた全体の中で捉えると明らかに、「アシンメトリー」の美しさなのです。
日本人の情緒は、幾何学的な『シンメトリー』では、どこか座りが悪い様な気がするのです。
フランスでは、『シンメトリー』の美を追求したものが多い理由を、現地に行って、直観的に気が付きました。理由の一つは、地形にあると思います。フランスという国には、国土のほとんどが平野です。山がほとんどありません。そのため、景観の中に、山の景色が入ってこないのです。どこまで行っても、永遠に続くかの様な広大な平原。
『シンメトリー』の建造物をつくれば、純粋に、その建造物の『シンメトリー』の美しさが、引き立つ地形なのです。特に、太陽王 ルイ14世が造った、ヴェルサイユの庭園。幾何学的な『シンメトリー』の美しさを徹底的に追求した感動的な庭園です。
京都の庭園であれば、借景として、山やその周辺まで含めた全体の中で、自然との調和を図った美しさです。
美意識とは、あらゆる活動のベースとなるものです。難しい労務の問題の判断のベースには、法律解釈の前に、美意識があると思うのです。日常的に、美意識を研くことは、極めて大切なことだと捉えています。
今回のフランスの旅を通じて、『シンメトリー』の美しさを自分の中に取り込めることが出来た様な気がします。ヨーロッパの街は、個性的で美しい街が多いので美意識を研くために、また、勉強をしてから、訪れてみたいです。
作成日:2015年1月19日 屋根裏の労務士