「突然の臨検」
定期調査に入られても、弊社のクライアントは、どの事業所も、概ね問題がありませんが、担当官によっては、どんな展開になるのかはわかりません。調査が終わるまでは、私の方も、緊張が高まり心配になっています。
弊社のクライアントは、基本となる重要なコンプライアンスを順守しており、担当者もしっかりとしています。そのため、定期調査には、私が同席をすることは余りありません。しかし、状況によっては、私も直接同席する場合があります。特に、下記の様な臨検のときです。
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通知書なしに、突然、臨検に入られた場合の後日対応。
労働基準監督署や年金事務所の調査は、ほとんどの場合、事前に通知書を頂き、調査日を確認しあって、当日調査に入る形になります。しかし、通知書なしに、いきなり、臨検に入られる場合もあるのです。
労働基準監督署や年金事務所の担当官は突然の臨検に対する理由について、単なる調査である旨しか教えてくれません。実際に、担当官が無作為に抽出して、突然の臨検を実施することもあるとは思います。
しかし、これまでの私の経験則から言えば、突然の臨検を受ける展開になる場合、社員からの密告によることが多いようです。実際に、問題となっていた社員が退職する際に、捨て台詞の様に、近いうちに必ず労働基準監督署が調査に入る旨を発言されて、退職日の翌日に、労働基準監督署から、突然の臨検を受けたこともありました。
その時も、監督官は問題社員からの告発を受けての調査だとは決して言わずに、単なる臨時調査である旨を話していました。ある日、突然、臨検を受ける事態が起きても、慌てることはありません。その日は、監督官を不誠実に追い返すことなく、きちんと丁寧に対応して下さい。
その上で、求められている書類などはすぐに用意できないこと。既に、その日は他の用事が入っており、後日、改めてきちんと調査を受ける旨を説明すれば、ほとんどの監督官が、その日はお引き取りしてくれます。
慌てる様な素ぶりを見せたり、不誠実な対応をすると、ブラック企業の類だと怪しまれ、監督官の心証を害することになります。そうなると、その後の調査で徹底的に対応されます。
どんな人間でも「手心」というものがあるものです。状況に応じて加減してくれたり、こちらの立場を考慮してくれたりする一面も人間ですからあるものなのです。
調査や交渉事は、相手から取り組み易いと思われてはいけません。ましてや、舐められては、絶対にいけません。何も知らない無知な者とも思われてもいけません。役所の調査や説明会、労働条件の変更、退職勧奨などなど。難しい交渉ごとで大切なことは、次の意識です。
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相手の悪意を駆り立てずに、
相手の善意を引き出すような意識。
上記は、年齢を重ね、鉄火場での経験を積まないと、中々、身に付けられるものではありませんが、意識していくことは大切。調査の結果、悪い展開になった場合、是正勧告を受けた内容の改善実施の状況をしばらくの期間、報告するような形になることもあります。保護観察処分のような形となるのです。そうなると、今後、監督署から何かと目を付けられることになりかねません。
最近、日常の中で、特段、労務の問題になっていないのに、ある日、突然、臨検を受けることが続いています。昨年末から今年に入り、2回、上記の様なことがありました。恐らく、在籍している社員の密告を受けての臨検だと思います。
今回も、監督官は社員からの告発を受けての調査だとは言わずに、単なる臨時調査である旨を説明されました。監督署の調査やその対応をするために、私自身が、労働基準監督署に、直接、赴くことが増えています。労働基準監督署に行く度に感じることですが、最近、監督署の労働相談は、とても込んでいるということです。
社員が労働基準監督署に駆け込むようなこと。以前にくらべて、その重々しい意識は無くなり、気軽に相談に行ける様な世の中の風潮なのでしょう。待っている間に、相談内容などが聞こえてくるのですが、相談の多くが、未払い残業、解雇、長時間労働などです。
本人だけでなく、親子や夫婦で、相談に来ている姿も見かけます。先週、ある対応をしてきた監督署では、本人ではなく、母親が、息子の会社のことで、一人で相談に来ていました。息子が、毎日毎日、母親に会社の不満ばかりを言っているそうです。
『毎日、長時間労働で、残業代も支給されていない。』
『毎日、遅くまで働いていて、正社員のはずなのに、賞与も出ない。』
息子が、少しノイローゼ気味で、うつ病になったり、自殺したりしないか、家族はとても不安になっているそうです。会社に相談をすれば、関係が悪くなり、パワハラを受けたり、いじめられることが心配で誰にも相談が出来ない様です。
そこで、監督署から、一度、その会社に密告であることを隠して調査に入って欲しい旨を、熱心にお願いしていました。法律に違反している箇所について、是正して頂きたい旨を、繰り返し話していました。
労働者本人だけでなく、その家族の人からも、監督署から家族が勤務している会社に、一度調査に入って欲しいという相談は電話などでも急増している様です。
多少景気が上向いてきた感もありますが、雇用不安は、根深くあります。昨今の雇用状況の中で、就職活動をした人は、トラウマになる様な思いだったと話す人も少なくありません。
就職した会社に対して、多少不満どころか、大いに不満であってもそこを去り、辞めるという決断も出来ない人も多いのだと思います。だから、直接、会社に相談するのではなく、監督署に密告して調査に入らせ、是正勧告を求める様な形が増えているのです。
突然の臨検は、正直、監督官もその会社に対して悪いことをしている様な疑いの雰囲気で厳しく対応してくることが多いものです。調査に立ち会いしたときの雰囲気。温かさがまるでなく、何か冷たく厳しいのです。
監督署の調査に対して、準備やその後の対応に関して会社は、膨大な対応をしていくこともあります。従業員がいきなり監督署に相談に行く前に、まずは会社内で相談できる体制。労働条件や人事制度、職場の労働環境について、社員が質問したり、相談できる体制整備。
大手企業では、出来ていることが多いですが、中小企業でも、その体制づくりをしていく必要も感じています。
作成日:2015年2月16日 屋根裏の労務士