「本物は凄い!」
カエルとウサギが相撲をするシーンが描かれるなど、動物が人間のような仕草で描かれているのが特徴。現代の漫画の原点とも言われている作品です。国宝にもなっている日本で最も有名な絵巻。墨線のみで動物や人物たちを躍動的に描いた、日本絵画史上屈指の作品。
私は、「鳥獣戯画」展の開催を楽しみにしていました。開催日翌日の祝日に、早々に、足を運びました。実は、今回2回、「鳥獣戯画」展に足を運んでいます。
「鳥獣戯画」展は、長蛇の列が出来ていました。入場制限が行われていて、館内に入るだけで90分待ちの状況。私は、並ぶことが大嫌いです。それでも、楽しみにしていたので、列に並んで、ワクワクしながら入場を待っていました。90分近く並んで、やっと入場口が近づいてきたとき係員の方から、下記の様な説明がありました。
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『お待たせしました。いよいよ入館です。』
『楽しんできて下さいと言いたいところですが、
館内は大変混雑しています。』
『覚悟して、最後まで見てきて下さい。』
『では、覚悟して、行ってきて下さい。』
私は、90分も並んで、ゆったり見られないことに内心、「えー!」と思いました。ある程度ゆったり鑑賞させるために、入場制限を設けているのだと思っていたのです。係員の方の『覚悟して』という言葉通り、というよりそれ以上に、館内は混雑していて、ゆったり鑑賞することは出来ません。
今回の展覧会で見たかった、「鳥獣戯画」で最も有名な「甲巻」。カエルとウサギの遊び画です。展覧会の目玉である「甲巻」を見るためには、90分並んで入場したうえに、更に館内で150分も待つのです。合計240分、つまり、4時間も待つことになるのです。
私は、「鳥獣戯画」展に、そんな大混雑を、『覚悟して』、来ていませんでした。私は、その日に別の用事があったので、150分待ちの列には並ばずに、館内を出ました。入場料は残念でしたが、仕方がありません。
5月の平日に、2度、上野に行く予定が既にあったのでその帰りに、再度、「甲巻」だけを、10分程度、さっと見ることに決めて、ガッカリ感の気持ちを切換えました。しかし、人気の展覧会は、平日でも混んでいて、平日でも「甲巻」は、150分待ちの状態。
ちなみに、東京国立博物館はツイッターで混雑状況を随時お知らせして、確認できるようになっていました。平日に、150分も時間を割くことなど、出来るはずもありません。
結局、先週末の土曜日に、並ぶことを『覚悟して』190分待ちの列に並んで、「甲巻」だけを見てきました。「甲巻」だけであれば、10分程度の鑑賞です。それに、3時間以上並んだのです。
なぜ、今回、「鳥獣戯画」展が、こんなに大盛況かというと、今回の展示品が「本物」だからです。「鳥獣戯画」は、世界遺産である京都の高山寺に、通常、展示されています。しかし、高山寺に一般展示されているのは、高性能のコピー機でプリントした単なる、『レプリカ』なのです。
「本物の鳥獣戯画」は、非公開なのです。今回の展覧会は、「本物」を見ることができるまたとないチャンスだったのです。3時間並んで、お目にした、「本物の鳥獣戯画」。さんざん並んで、「本物」を見て、しみじみと、次の気持ちが湧きあがってきました。
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「本物」って、凄い!
「本物」というのは、『レプリカ』とは、全く違うということ。印刷物で見るもの以上に、「本物」は躍動感に溢れているのです。カエルやウサギのコミカルな動き。ヒシヒシと伝わってくるのです。印刷物のレプリカでは分からない、墨の濃淡や筆のタッチの強弱。ひとつひとつを、実際に目で、まじまじと確かめることが出来ます。
ウサギやカエルの楽しそうな表情や仕草。イキイキと描かれているのです。動物たちが、楽しそうに描かれていて、この画を見ていると、私も画の世界に入って、一緒に遊びたくなるような魅力があるのです。
4年もの長い間、修復作業された今回の「平成の大修繕」。もともと1枚の紙の裏表に書かれていた部分があることも今回の修繕で、新たに発見されました。このことからも、絵師が本格的に書いた絵というより、気楽に遊びで、画いたものであることを推測できるというものです。
「鳥獣戯画」は、吹き出しをつけて、マンガになっていても、違和感がありません。まさに日本のマンガの原点とされる遊び画でしょう。平安時代の頃から、こんなにコミカルな遊び画があったことがわかり、日本のサブカルチャーの高さが、改めてわかりました。「本物の鳥獣戯画」には、そんな迫力がありました。
結局、印刷物や写真、テレビなどでは、なんらかのフィルターを通して、見て、確認するということになります。「本物」を見るということは、そういうフィルターを一切取っ払って、本当の姿を、見て、感じて、分かるということなのでしょう。
これまで、散々、印刷物やレプリカを見てきましたが、やっぱり、「本物」は、違います。3時間並んで、「本物」に触れた感動。「本物」というものの本質がわかり、何かを掴んで気がしています。
作成日:2015年6月8日 屋根裏の労務士