「口が堅いという能力」
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間接部門の評価制度
本社・管理部門や支社・事務職へ評価制度の策定です。通常、評価制度の依頼がある場合、会社の収益に直接影響する製造や営業、技術への直接部門が中心となるものです。
間接部門の評価は、概して、直接部門より運用が難しい傾向もあります。しかし、打合せに要する時間の関係などから、通常、間接部門の評価制度の策定にはあまり時間を割いて打合せをすることがありません。今回は、珍しく、「間接部門に限定した評価制度」を策定していきたいという意向でした。
ご依頼を頂いたクライアントは、事業再編の中で吸収合併を繰り返して、小生とお付き合いをさせて頂いた10年前と比べて、3倍以上の企業規模になったのです。10年前に比べて、間接部門の人数も3倍以上になり、10年前には存在しなかった様々な間接部門が出来てきました。
企業規模や企業の質が変わっていく中で、収益を直接稼ぐ本業の直接部門については、様々な業務改善がなされ、強化された様です。一方、間接部門については、社長や役員も大切なことであるとは認識しながらも、日々の繁忙の中で、いつも、後回しになっていたそうです。
会社が新たなステージに行くためには現業部門の強化だけではなく、間接部門の役割も改めて、見直して強化していく必要が出てきた様です。そこで、今回は、間接部門に絞って、評価制度の打合せを進めることになったのです。
評価制度のプロジェクトを進める中で、下記のテーマがあります。
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従業員インタビュー
評価制度の考課項目である着眼点を策定するにあたり、従業員からの直接の意見も、評価制度に取り入れていくのです。普段、役員の方には言えない意見や考え。インタビューを通じて、たくさん出てくるものです。
役員の方も、従業員インタビューの報告書。フィードバックが楽しみでもあり、新たな気付きも多く、組織を運営していく中で、大変参考になる様です。インタビューの中には、「前向きな意見」もあれば、『後ろ向きの意見』もあります。未来に向けて、現状を改善していくための「建設的な意見」もあれば、現実的には、どうすることも出来ない、「事実としての意見」もあります。
私は、現実的にありもしない、『机上の空論』に関しては、聞き流すことはあっても、「事実としての意見」に対して、『愚痴』と捉えたり、『後ろ向きの意見』として、切り捨てること様なことは、基本的にはしません。
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「どうにもならない、闇のような事実」。
誰もが、程度の差こそあれ、抱えて生きているからです。考えたくなくても、考えていかなければならないこと。組織や労務に関することは、そんな「闇のような事実」と向かい合って、対峙していくことでもあります。
間接部門に、特に管理部門には余り、向いていないという人もいます。間接部門、特に、管理部門にはとりわけ大切な能力を備わっている人材を登用していく必要あります。
私は、小生の窓口になる様な方を、新しく採用したり、抜擢していきたいという相談を受けるとき。これまでの人事や総務でのキャリアということをほとんど重要視していません。本人のモチベーションが高ければ、知識的なことや技術的なこと。後からいくらでも、身に付けていくことが出来るからです。
特に、労務に関して、人の上に立つような人。何か知っているという法律の知識的なことより、「闇のような事実」に対峙していく、成熟した精神性。大局的な視点から、総合的に判断できる能力が求められているからです。
労務に関する「闇のような事実」に直面することになった場合、法律論で対応できるようなことは少ないと思います。ある意味、完全に法律論で落とし込められた事とは、既に答えがある事務員でも出来る、いわば、決められたマニュアル化した手続きと同義なのです。
何ら、人事や総務でのキャリアが無い方で、人事・総務部門に抜擢されて、経験を積んで、役員や部長になっていく方。小生の窓口をして頂いている方には、たくさんいます。社会保険や法律の知識を、詳細に身に付けた方ではなく、「闇のような事実」に対峙して、判断していくような能力を身に付けたので、役員や部長に抜擢されているはずです。
「闇のような事実」に対峙していくにあたり、無くてはならない大切な能力があります。それは、下記の能力です。
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「口が堅いという能力」
口が堅いということ。世の中には、得てして勘違いしている人が多いものです。その人に独自に備わっている「特別な能力」ではなく、『誰にでも当たり前に出来るもの』だと捉えている人。別の見方をすれば、口が軽い人というのは、決して治ることが無い、不治の病のような方なのです。
秘密保持や守秘義務に関する誓約書でも出させれば、それで、口を割らないと思い込んでいる方も多いものです。しかし、組織の中では、いつも情報が洩れているものなのです。ある意味、あらゆる情報が、常に、組織の中では、売り買いされているのです。情報を漏らしている当人たちも、現実的に金銭が動いていないので、情報を売買しているという意識。ほとんど無いでしょう。
しかし、興味本位という噂話、自分の損得意識。将来に対する期待や不安、人間不信な一面、情報を先に知った優越感など。人間が持つ様々な煩悩の中で、複雑に感情が入り交じり、複雑に入り組んだ人間関係の中で、情報とは絶えず組織の人の中でやりとりが行われて、洩れているものなのです。
ここだけの話、オフレコ、極秘情報などと言いながら・・・・
口が堅いということ。公正中立が重んじられる特に管理部門では、組織を運営していく上でとりわけ、大切な能力なのです。今回、間接部門の評価制度を策定する中で、評価シートの着眼点の中にも、教育的な意味を踏まえて、落とし込んでおきました。
作成日:2016年3月21日 屋根裏の労務士