「高齢期のモチベーション」
通常、小生はクライアントの従業員の方とは、直接、接触することがありません。守秘義務に抵触する可能性が出てくるからです。会社が正式に決めた窓口の方でなければ、役員の方であっても、連絡やご相談を頂いても、ご回答することはありません。
利益相反事項があったり、双方代理の可能性が出てくる様な行為。小生は些細なことであっても、極力、対応しない様に注意しています。クライアントの従業員の方からは、会社のこと、個人的なことに関わらず、ご相談について、一切、受けない方針をとっています。
しかし、クライアントも様々あります。零細企業のクライアントについては、従業員と直接ご対応させて頂くこと。度々、出てくることがあります。弊社のクライアントの中で、従業員が10人に満たないため就業規則作成義務がないクライアントが2社あります。(ちなみに、2社とも就業規則を作成させて頂いています。)
今回、丁寧なお手紙を頂いた方。小生が、駆け出しの頃に知り合った零細企業のクライアントの嘱託社員です。いつも明るく元気な女性で、いつも電話に出て頂く度に元気の出るお言葉をかけて頂いていました。
高年齢雇用継続給付金の申請は、60歳から65歳までの5年の期間に渡り、2か月に1回のペースで手続きが発生します。毎回、申請書や必要書類を頂く度に、季節の言葉を交え、近況をお知らせしてくれる丁寧なお手紙を頂いていました。
60歳になり定年退職して再雇用され、嘱託社員になりました。本人の希望を踏まえて、週4日の短時間勤務の雇用契約。
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憧れの週休3日制
60歳になってから、ワークライフバランスの理想モデルの様な働き方が出来ていました。私も、60歳の定年退職前に、再雇用に伴う一連の手続きのご説明をさせて頂いたとき、下記を話していました。
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「週休3日なんて、羨ましいですね!」
「人生のゴールデンエイジですね!」
この羨ましい週休3日の雇用契約。結局、1年限りの契約で終わりました。頂いたお手紙の中にあった次の言葉。何か印象的でした。
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「周囲の後押しで、週休3日で勤務を続けていましたが、
自分の中で限界を感じるようになってしまいました。」
弊社は、労務のコンサルティングや相談業務に特化している社労士事務所。そのため、手続きは消極的にしか対応していません。弊社のクライアントは、一定規模を要するクライアントが多く、会社内に手続きの担当者がいたり、他に手続きをしている社労士事務所が既にあるからです。
しかし、高年齢雇用継続給付金の申請は、時々、対応させて頂くことがあります。これまで対応をして感じることですが、次のような傾向があるのです。
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バリバリ働いていた方が、定年退職を迎え、憧れの週休3日勤務になって
60歳から65歳までの給付可能な5年間、働き切った人。
ほとんどいないということ。
実は、先月末にもクライアントの担当者だった方から丁寧な退職の挨拶を頂きました。年金が満額支給される年齢になったこともあり、5月いっぱいで、退職することにしたそうです。男性の方でしたが、メールに次の様なコメントがありました。
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「還暦を迎えて嘱託となり週休3日で勤務させて頂いていましたが
何か、モチベーションを維持していくのが難しくなり、
今月末をもって退職することになりました。」
定年退職を迎えてから、憧れの週休3日制。もちろん、残業もほとんどありません。これまで、ワークワークで企業戦士と呼ばれる様な働き方から、週休3日のワークライフバランスの理想状態とも言える働き方で、毎日楽しく過ごしていたようです。
60歳から65歳までの期間は、仕事と人生の両方を楽しめる人生の「ゴールデンエイジ」という捉え方も出来ると思います。実際に、60歳から65歳までの毎日を「ゴールデンエイジ」と言って、人生を楽しんでいる方。私の周りには、たくさんいます。
一方、60歳以降、次のような精神状態に、なる人も多いようです。
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燃え尽き症候群に近い精神状態
60歳まで頑張ることは、人生の大きな目標であり、目的でもあったと思います。還暦を迎えると、多くの方が一線から外れます。60歳は人生の大きなターニングポイントになる年齢です。燃え尽き症候群とは言はないまでも、職業人生の長い緊張状態から解放されます。
60歳になり、定年を迎えると意外と難しいことのようです。
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職業人生に新しい目標を持つこと。
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モチベーションを維持しながら、仕事を続けること。
60歳を職業人生の通過点ぐらいに捉えて、新しい知識を身に付けて、新しいことに挑戦している方。誠に、頭が下がるばかりです。
今年の2月に、サラリーマン時代の最後の部長と4年ぶりにお逢いしました。部長は、現在64歳です。年金が満額支給する年齢になりましたが、まだまだ、現役で頑張るようです。
会社は部長職まで就任した方。希望すれば、67歳までは誰でも雇用するそうです。更に、67歳を過ぎても、下記があれば、67歳以降も働くことができるそうです。
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本人が本気で働く意思
会社は、メディアから妖怪人事と揶揄されることがあります。80歳を超える役員どころか、90歳を超える役員までいるのです。ちなみに、多くの方は、名誉職の肩書だけで就任しているわけではありません。バリバリに、役員の仕事をこなし、経営判断を下しているのです。
そんな怪物たちがつくった再雇用制度が下記です。
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再雇用する場合、短時間勤務なし
つまり、週休3日や週休4日という働き方。会社は認めていないのです。仕事をするのであれば、正社員と同じように、定時に出社させるのです。さすがに、ほとんど残業はしていないそうですが、勤務日数は正社員と同じです。カレンダー通り、週5日で出勤させるのです。
私は、この再雇用制度を部長から聞いたとき。元気が溢れる部長の姿を見ながら、何か、分かったような気がしました。90歳を超えて、バリバリの現役で頑張るような役員を輩出している会社。会社は、知っているのです。
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何歳まで、モチベーションを維持して働けるのか。
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どのようにすれば、モチベーションを維持させることが出来るのか。
高齢期というのは、経済状態や健康状態に個人差はありますが、モチベーションを維持できれば、67歳までは働くことが出来るでしょう。もっとも、働くことができるか否かという議論より、『1億総活躍社会』のスローガンの下で、嫌でも、67歳ぐらいまで働くことになると思います。
日本の少子高齢化の現状を考えれば、官僚は67歳からの年金支給を当然に視野に入れていることでしょう。実際に、アメリカでは年金の支給開始年齢は日本より、2歳遅く67歳からです。弊社のクライアントの再雇用の状況を見ていると、男性は67歳、女性は70歳までは、就業可能と見ています。
話を、私の上司の話に戻しますが、部長職まで就任した方については、下記を条件として、本人が希望をすれば、更に67歳から働くことが出来る運用にしてあるのです。
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67歳以降も、週5日勤務で勤務すること
正社員と同じく週5日勤務を誓わせ、覚悟させることにより、自ら引き出せと言っているのです。
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働く上でのモチベーションを
恐らく、怪物役員たちは、週4日勤務、週3日勤務では高齢期におけるモチベーションを維持させることが出来ないこと。これまでの経験の中から、掴んでいるのだと思います。
当たり前ですが、高齢期になると経済格差が拡がります。経済状況や健康状態、家族の状況などの本人が置かれた状況により、働き方は多様になってくるものです。
色々なケースがありますが、どのように自らのモチベーションを保ち、モチベーションを引き出し、維持させていくのかも細かく検討していくことも高齢期の労務の対応の中で、今後必要になってくると思うのです。
少子高齢化の日本社会。それに伴う高齢期の労務の対応は、これからの大きなテーマになります。
作成日:2016年6月6日 屋根裏の労務士