コラム Column

「社労士試験の心構え」

弊社のクライアントには、社労士の資格を持っている方。実は、少なくありません。有資格者のほとんどの方が、社会保険の事務担当者の方です。私と労務について、お打合せすることは、ほとんどありませんが、クライアントの社内には有資格者がいます。

小生は事務担当者とお打合せをすること。ほとんどありません。それでも、時として、事務担当者の方とお打合せをさせて頂くこともあります。事務担当者の方とお打合せをすると、雑談や打合せが終わった後で、次のことでご相談を受けることが度々あります。

  • 社会保険労務士試験の勉強方法

現在、社労士資格の取得に向けて、資格取得の学校に通ったり、通信講座に申し込んで真剣に勉強をしている様です。しかし、中々、勉強が上手く進まないので、何かアドバイスを頂きたいというご相談です。

小生は、資格学校の講師ではないので、資格試験のことは、あまり詳しくありません。小生が社労士の資格を取得したのは、かれこれ、もう13年も前になります。

社会保険労務士試験の勉強方法や資格試験のこと。その道のプロである専門の資格学校の講師などに相談されるのが一番だと思います。近年の傾向やその対策などがあるはずだからです。また、私は、独学で資格試験に臨むこと。お勧めしていません。正直、社労士試験は、独学では非効率であり、遠回りだと思います。

よほど、時間が余っていたり、勉強が趣味の方以外はプロの力を利用した方が良いという考えをもっています。つまり、「お金の力」を利用できるのであれば、「お金の力」を最大限に利用した方が良いという考えを持っているのです。

資格取得の学校などに通って、勉強方法のアドバイスを受けられる環境にいるのに、更に勉強方法のアドバイスを頂きたいということ。不思議に思われるかもしれませんが、少しだけその気持ち。わかるような気もします。資格取得に向けて同じ道を通ってきた者として、何か分かるような気もしています。

  • 5月から6月の時期になり、
    何かアドバイスを頂きたいという気持ちになること。

5月から6月の時期は、一通りインプットの講義が終了。社労士試験の全体像が見えてきます。全体像が見えて最初に勉強した範囲に戻ると、あまりにも範囲が広すぎて、分からなくなってしまうのです。

  • 「一体、どこから手をつけたら良いのか?」

社労士試験は、一年に一度しかありません。試験日は、例年8月の最終日曜日。試験に向けて社労士の講座が始まるのが、早い講座で8月から、通常は9月から10月頃が開講。11月の初旬の合格発表後から始まる講座もあります。

講義を受けて、インプットの時期が9月から4月までの8か月程度の期間。5月から6月の時期は答案練習会や模試など、アウトプットの時期になります。受動的に講義を聞いている状況から能動的に自分の力で試験を解く状況になるのです。

受け身の姿勢で聞いているだけであれば、社会保険の世界を体系的に理解が出来て、結構、楽しいものです。それが、能動的に自分で問題を解く状況になれば、様相が一変します。

8か月も前に勉強した内容。正直、ほとんど覚えていないと思います。科目ごとの答案練習会の試験範囲ですら、毎回、なかなか、試験範囲の勉強がやり切れずに答練を受けることになっていると思います。

昨今の不況の中で、身銭を切ってまで社労士の講座に申し込んでいる方。インプットの時期には、脱落者はあまりいないと思います。しかし、テストの結果が伴うアウトプットの時期になると途端に脱落者が出始めて、回数を追うごとに受講人数が減っていくのです。

毎年、合格者の多くは、下記の中から出ているはずです。

  • 資格学校が立てたスケジュールに、
    最後の最後まで食らいついて、
    資格学校が用意したカリキュラムをすべて消化した方。

仕事でも立てた計画を実際に遂行できる方。なかなかいません。会社から割り当てられたノルマを達成できるのは一部の人だけでしょう。結果が伴わないと、中々、モチベーションも出てきません。更に、毎回毎回、合格判定と順位を、客観的な数字で突きつけられます。

本試験に臨む前に、戦意を喪失して自信をなくし、今年の試験は諦めてしまう方も少なくありません。試験に向けて、あれこれ、迷ったり分からなくなったりすること。弱気になったり、モチベーションが出なくなること。誰もが一度はあることだと思います。

そんな精神状態になっても、結局、やることは一つだと思います。

  • 資格学校が立てたスケジュールに、
    最後の最後まで食らいついて
    資格学校が用意したカリキュラムをすべて消化すること。

色々な精神状態に陥っても、結局、上記が資格試験の王道であり、合格への最短ルートなのです。

当たり前ですが、資格受験のプロである専門機関。落ちるためのスケジュールや勉強量なんて組んでいません。限られた時間の中で、合格するためのスケジュールと勉強量を組んでいます。

冷たい見方をすれば、資格学校は講座に申し込んで頂ければ、スケジュールとカリキュラムについて来る、試験に受かる素養がある人しか相手にしていないのです。講師は色々と精神的に励ましてくれるかもしれませんが、ついて来られない人にスケジュールや講義のペースをあわせることはありません

会社や学校であれば、上司や教師は出来ない人、ついて来られない人も、相手にしてくれます。一方、資格学校は、ついて来る人しか相手にしていません。ついて来られない人もサービスは受けられますが、実は相手にはされていません。相手にされていないというより、お金を払ってくれる『良いお客様』になっているのです。

社労士試験は、比較的に資格試験と実務が近い内容です。試験の勉強で得た知識は、実務でも実利的に役立つことが多いと思います。そのため、試験の結果が悔しい結果に終わったしまった方やこれから資格試験に臨む方に対して、次の様なアドバイスをしていた時期もありました。

  • 資格試験の勉強は無駄にならない。

試験の勉強内容は、実務での基礎力にはなるからです。それに、資格試験に突破できなければ、そもそも、開業するための門が開きません。しかし、最近は、自分の考えが変わり、資格取得のアドバイスのニュアンス。自分の中で、下記の様に変わってきました。

  • この道で食っていくという覚悟であれば、
    一日も早く資格試験を突破して、
    実務の勉強を始めた方が良い。

正直、資格試験を乗り越えた程度の知識。「売れるような法律知識」のレベルではありません。つまり、『相手がいない資格取得』で得た知識レベルでは、「相手がいる市場」で相手にしてもらえません。市場にはペーパードライバーの様な社労士が溢れています。

社労士は業務範囲が広いので、それぞれ専門分野が異なります。自分の得意とする専門分野を見つけて、そこに特化して、売れるような知識のレベルに彫り込んで、実務の勉強に人生の貴重な時間を費やした方が良いでしょう。実務で勉強することは、それこそ、日々膨大な量があります。

実は、私は合格した直後から社労士試験のこと。もう、ほとんど関心がありませんでした。試験を終えて、嬉しくなったのは、試験の翌日に自己採点をした日だけです。合格したときは、嬉しさよりも、ほっとした気持ちに。しかし、そのほっとした気持ちになった直後。どこからともなく、怖さや不安な気持ちに襲われたこと。今でも覚えています。

これから、この業界で食っていくことを考えたら、どこからともなく、怖さや不安な気持が襲ってきたのです。

  • これで食っていくということ。
    これで生きていくということ。

    私は覚醒していたのです。

私は、趣味や履歴書のキャリアアップで資格をとったのではありません。合格祝賀会の時も、嬉しくありませんでした。実務の世界に飛び込めば、すぐに、更なる困難になること。試験に受かっただけの自分では、相手にされないこと。何か直感的に分かっていたからです。

合格した後に開業セミナーや、実務講習に色々と身銭を切って参加していました。しかし、合格直後、参加者はまだ資格試験や学校、講師の話題が多く、私は周囲と全く会話が噛み合っていませんでした。

先週、勉強方法の相談を受けているときに聞いたのですが、昨年度の社労士試験は、これまでにないような難関試験だったそうです。大手資格学校の合格予想は軒並み外れ、合格率2.6%。100人受験して3人に満たない合格率。

通常、資格学校に通った場合の合格率は全国合格率の2倍程度と聞きます。昨年度は、資格学校に通っていても、100人のうち5人から6人程度しか合格できていないことになります。

通常の年の3分の1程度の合格率。大変、厳しい試験を強いられたことになります。昨年、試験に臨んで悔しい結果になった方。納得できない気持ちになるのは、理解ができます。この試験は、かなり「運」により合否が左右される試験です。私も「運」が良く試験に通った一人です。

週末に、昨年度の問題をダウンロードして選択式と労働基準法と安衛法の択一式だけを解いてみました。問題を解いた小生の感想です。

  • 一日も早く資格試験を突破した方が良い。

実務の本業で役立つ様な問題もありますが、実務では全く役に立たないような細かい知識を問う問題のオンパレード。あんなどうでもいい細かい知識だけの問題を選択式の問題で出すことに、少し疑問も感じますが、落とすための試験ですので仕方ありません。

それに、「相手がいる実務」で本当に必要なことを、『相手がいない机上の試験内容』に落とし込むのは、難しいというより不可能だとも捉えています。

問題はかなりの長文化の傾向。択一式の問題は64ページの膨大な量。一つの選択肢が10行以上にもなるような長文化。それらが5択でならんでいます。3時間30分の試験では、時間が足りなかった人も多かったと聞きました。

組合せ問題や事例問題もかなりの数が出題されていました。正確な知識に加えて、知識を使い回せる応用力も求められています。それでも、ほとんどの問題は、実務の内容とは異なるものです。一日も早く資格試験を突破して、実務の勉強に時間を費やすに限ります。

資格試験は、過去問が毎年更新されていき、それに対する傾向と対策がなされていくので、試験の内容は、年々、難易度が増していく傾向にあります。それでも、昨年度の合格率2.6%は、例外的な難易度であり今年は、合格者が増えることを願っています。

小生は社労士試験については、アドバイスできること。勉強方法ではなく、心構えだけです。

『試験の机上の世界』から「現実の実務の世界」へ。
『一人で行う世界』から「相手がいる世界」へ。

『一人で行う机上の試験』も大変ですが、「相手がいる現実の実務の世界」もまた別の大変さです。試験と実務では、大変さの質が異なります。机上で制度を理解していくことも大切なことです。その前提がなければ、市場でなかなか相手にしてもらえません。

試験勉強で培った『一人であれこれ苦労した経験』が、一日も早く、「相手がいる実務」で、花が開くことを期待しています。

作成日:2016年6月20日 屋根裏の労務士

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