「健康保険・厚生年金保険の適用拡大」
今回の算定基礎届の中に、下記のお知らせが同封されていました。
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「平成28年10月より短時間労働者に対する
健康保険・厚生年金保険の適用拡大が始まります。」
A3で両面印刷されたペラの用紙です。今回、その内容に関して、いくつかご質問を頂きました。この用紙は意外と誤解を招きやすいようです。
まず、今回、平成28年10月からはじまる短時間労働者の社会保険の適用拡大に伴う特定適用事業所の取り扱いついては中小企業には関係がありません。対象となるのは、従業員501人以上の企業です。正確には、下記の定義の企業が対象になります。
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同一事業主の適用事業所の厚生年金保険の被保険者数の合計が
1年で6か月以上、500人を超えることが見込まれる場合は、
特定事業所として短時間労働者の適用拡大の対象となります。
今回の算定基礎届の結果を踏まえて、特定事業所として見込まれる企業には、8月下旬ごろに手続きの案内が届く予定です。特定事業所に該当する企業については下記の手続きを届け出る必要があります。
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「特定適用事業所該当届」
今回のお知らせは、最初に、従業員501人以上の企業を対象とした特定事業所について、案内がはじまっているので、その他の法改正についても、501人以上の企業で関する内容だと誤解をしている中小企業の担当者の方がいました。下記の内容に関しては、平成28年10月1日より中小企業も対象になります。
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被保険者の取り扱いに関する留意事項
被保険者の資格取得基準(4分の3基準)の明確化
社会保険は、4分の3以上の勤務があれば、社会保険に加入させなければいけません。この『4分の3基準』に関して、ご質問やご相談が多いものです。これまで、『4分の3基準』について、ご質問やご相談。小生は、何度、対応したのかもわからないぐらい数多くご質問とご相談を頂き、対応してきました。
社会保険に加入させる『4分の3基準』に関して、ご質問やご相談が多いのは理由があります。それは、現行で次のような文言になっているからです。
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『1日または1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が、
おおむね4分の3以上』
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『被保険者として取り扱うことが適当な場合は、
総合的に勘案し、被保険者資格の適用を判断すること』
「または」と「および」で文言をつないで、『おおむね4分の3以上』という表現にしているのです。さらに、これまでは「総合的に勘案し」という曖昧な判断基準になっていたのです。曖昧な判断基準のため、ケースに応じて、判断が分からなくなることが多かったのです。
1日の労働時間で判断して、4分の3以上なのか。
1週間の労働時間で判断して、4分の3以上なのか。
1か月の所定労働日数で判断して、4分の3以上なのか。
また、1か月の労働日数は年間平均を使うのか。
シフト制の場合では、所定労働日数ではなく、
1か月の総労働時間で検討しても良いのか等々。
年金事務所の調査が入った場合でも『おおむねの4分の3以上』の解釈や指導について、担当者によって、差異があるものでした。そのため、状況によっては、小生が調査に同席することもありました。
『おおむねの4分の3以上』という判断基準は不明確であり、企業が社会保険に加入させないことを誘発させているという意見もあり、今回の法改正では、削除されることになった様です。平成28年10月1日以降の「4分の3基準」は、次のような内容になります。
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「1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が、4分の3以上」
現行と異なるのは、『1日または』と『おおむね』が削除されたのです。また、下記の基準も廃止になります。
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『被保険者として取り扱うことが適当な場合は、
総合的に勘案し、被保険者資格の適用を判断すること』
1日を無くしたのは、近年は育児や介護等で、短時間勤務をする方が増えたことがあります。すっきりした上記の基準でとらえたときでも、「および」の解釈について、次のようなご相談がありました。
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「1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が、4分の3以上」
上記基準の「および」は、両方に該当した場合加入させるという意味でしょうか。それとも、いずれか一つに該当した場合に加入させるという意味でしょうか。当該基準についての「および」は、両方の条件を満たしている場合、社会保険を加入させる必要があるという意味です。
別の捉え方をすれば、いずれか一つに該当しているだけであれば社会保険に加入させる必要がないことになります。上記の解釈は、念のために、年金事務所の担当官にも確認しています。
明確になったはずの改正後の「4分の3基準」でも、1か月ごとのシフト勤務のアルバイトなどについては社会保険の加入取り扱いについて、明確に対応ができません。改正後の「4分の3基準」は、下記の二つを要件としています。
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「1週間の所定労働時間」と「1か月の所定労働日数」
「1か月の総労働時間」での取り扱いについて、新しい基準でも明記されていません。これまでは、「1日の労働時間」と「おおむね」という文言から「1か月の総労働時間」を基準として、その4分の3未満であれば社会保険に加入させなくても良いという指導が多かったです。
今回の基準について、1か月単位のシフト制の場合、「1か月の総労働時間」を基準として、その4分の3未満であれば、加入させなくても良いか否かについて年金事務所に確認をしました。年金事務所からの最初のご回答は、下記のようなものでした。
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年金事務所だけの判断で即答はできません。
上部機関に確認相談しますので、
後日、ご回答させて下さい。
翌日、ご回答を頂いた内容が下記です。
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「1週間の所定労働時間」と「1か月の所定労働日数」が明確でないのであれば、
1か月の所定労働時間を12分の52で除して算定して
1週間の所定労働時間を出して、その時間が正社員の4分の3未満であれば、
社会保険に加入させない対応をしても問題ありません。」
「1か月の所定労働時間を12分の52で除して算定して」とは、1か月の所定労働時間に12を乗じて年間労働時間を出して、52で除して週平均時間を算出するという意味です。
これまで、年金事務所から調査を受けた際に、4分の3の基準となる通常の社員の労働日数や労働時間。年間休日数105日より多い企業でも、22日で検討してくれたり、月の所定労働時間を176時間で判断して、その4分の3未満であれば、社会保険の加入をしなくても、問題ないという対応をしてくれる担当官も結構いました。
改正後の「4分の3基準」では、どのような指導になっていくのかは、これから運用していく中で、実際に対応していかないと何とも言えません。新しい基準ができて、明確な基準ができた旨が年金事務所の案内には記載されています。しかし、改正後の「4分の3基準」でも、まだまだ曖昧なことが出てきそうです。
弊社の方に社会保険の加入に関して、ご相談を頂くことも引き続き多いと考えております。また、従業員501人以上の企業では、冒頭にご説明した通り特定事業所になりますので、改正後の「4分の3基準」により社会保険の加入者に該当しない場合でも、以下の条件にすべてに該当した場合は、社会保険に加入させる必要が出てきます。
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① 週の所定労働時間が20時間以上であること
② 雇用契約期間が1年以上見込まれること
③ 賃金の月額が8.8万円以上
④ 学生でないこと
上記をまとめると、平成28年10月1日から短時間労働者の社会保険の加入について次のようになります。
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すべての企業が10月1日より新しい「4分の3基準」で
社会保険の加入を判断する。 - □
501人以上の企業については
新しい「4分の3基準」で加入条件を満たさない者についても
4つの要件すべてに該当した場合、社会保険に加入させる必要がある。
また、短時間労働者の適用拡大に伴い、標準報酬月額の下限改定もあります。厚生年金保険の標準報酬等級の下限が現行の98,000円から88,000円に引き下げられます。
国は、厚生年金に入る資格がありながら国民年金に入っている人は200万人と推計。加入すべき人が入れないままであるという状況に対しても、これまで以上に、取り組みを強化していく意向があるようです。
作成日:2016年7月11日 屋根裏の労務士