「ワークライフバランスを実現していくために」
企業側としても特定の職種によっては、オフィス以外での勤務を認めるケースが増えています。パソコン作業のルーチン化された業務を行う部門について、オフイス・スペースを無くして、在宅勤務にさせている企業も出てきました。
従業員側の立場でも、週に2日、3日程度のペースで、会社に出社して勤務をすれば、わざわざ、毎日、通勤の労力をかけて会社に行く必要はないという意見もあるようです。
いわゆる在宅勤務のことを、「リモートワーク」と横文字で呼ぶことが増えてきました。所属している会社のオフィスではなく、自宅などで働くことを指します。「リモートワーク」や「在宅勤務」の他にも、「テレワーク」という呼称を用いる場合もあります。「テレワーク」は、下記が語源です。
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テレ(tele 離れた所)
ワーク(work 働く)
在宅勤務、「リモートワーク」、「テレワーク」など、呼び方の違いはあります。共通しているのは、下記です。
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会社のオフィス以外の場所で勤務する働き方。
今後、会社のオフィス以外で勤務にあたる働き方を円滑にとり進めていくために、政府は現行の労働法を見直していく必要があるでしょう。特に、下記についてです。
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現行の労働時間制度
会社のオフィス以外で勤務にあたる働き方をする場合、「事業場外みなし労働制」を適用していくことが多いものです。しかし、実際に、「事業場外みなし労働制」を運用していくにあたり色々と問題が出てくるものです。
現行の「事業場外みなし労働制」や「裁量労働制」について、活用しやすい制度や基準、指針などが必要になってきていること。日々の労務の相談で痛感しています。現行は、「事業場外みなし労働制」で、「リモートワーク」を運用していくことが多いのですが、企業側には、次のことを目指していく必要があります。
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成果に対する評価制度の精度を上げること
現実的に、評価制度と報酬をリンクさせて、誰からも納得できるような評価制度を上手く運用が出来ている企業などありません。それでも、「リモートワーク」を上手く運用させていくためには、評価制度の精度を上げていく必要があります。
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成果というのは、必ずしも、労働時間に比例して
出てくるものではありません。
上記は、ワークライフバランスを議論する際に、いつも出てくる議論です。現実的な対応として多くの企業が、労働生産性が高い社員に対して、報酬の支払いを適正に出来ているわけではありません。
賃金の単価については、評価や成果の概念を取り入れて反映させることは出来ても、最終的に支給する報酬金額に関しては、どうしても労働時間の影響を受けてしまうものなのです。
現行の労働法を踏まえれば、基本的には費やした労働時間に対して賃金を支払うことになっています。当たり前ですが、一部の例外を除いては、労働基準法は、達成した成果物に対して賃金を払うようになっていません。そのため、成果に対する報酬に関して、基本的には、労働時間をベースに取り決めていくことになるのです。
会社と従業員は、労働契約を結んでいるのですから、報酬が労働時間によって、決まってくること。ある意味、当然のことなのです。
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会社と個人は、請負契約をしているわけではありません。
会社と個人は、労働契約をしているのです。
ワークライフバランスの議論をするときに、上記の当たり前の前提を忘れている人が多いものなのです。
また、完全に「リモートワーク」で成果を出せる状況であればその業務に関しては、労働契約の必要性は既に無くなっており、請負契約でも問題がないということになるのかもしれません。若しかしたら、「リモートワーク」の仕事が増えていく社会とは、個人請負が増えていく社会かもしれません。
「リモートワーク」の普及が進めば、働く方々には、時間と場所の制約から解放されたフレキシブルな状態になるかもしれません。育児や介護と仕事の両立を可能にさせ、ワークライフバランスの理想状態になるかもしれません。これからの少子高齢化社会を乗り切るための有効的な雇用管理になりうる可能性があります。
しかし、現実は、そんな理想郷のような状態には、すぐにはならないでしょう。「リモートワーク」は、弊社のクライアントの中でも今後の少子高齢化社会を踏まえて、市場試験的な意味も兼ねて、既に、コンサルティングをして制度を導入させています。現実は、日々運用をしていく中で、次から次へと問題が出てくるものです。何でも現実というのは、机上通りに事が進まないものです。
仮に、机上通りに「リモートワーク」が進んだことを想定した場合、そんな自立的に活動ができる労働者は、既に労働者性は無くなり、良い意味での個人事業主となっている方でしょう。完全に「リモートワーク」が可能であるならば、企業側も、様々なリスクと経費を抱える労働契約ではなく、現実的に、請負契約を望んでくるケースも多いはずです。
企業側は、労働保険料や社会保険料、福利厚生費などの負担する必要が無くなり、何より労働基準法の適用も無くなります。優秀な外部の労働力を、目的を限定して活用ができることになるのですから企業側の視点で見ても、請負契約はメリットがあります。
一方、「リモートワーク」が、ブラック企業の経営者に悪用された場合。自立的に活動できない労働者は、責任を一方的に押し付けられ、価格交渉もできないままに無制限に酷使されるような事態になるリスクもあります。
「リモートワーク」の普及が進めば、時間と場所の制約から解放されたスタッフ間の距離。物心両面で広がっていくことは避けられません。組織の結束力は弱まり、個人主義が強まるリスクが高いのです。業務の確実な進捗やアウトプットの質が下がることなど。現実的には、課題は山積しています。
それでも、「リモートワーク」という働き方。「1億総活躍社会」や「介護離職者ゼロ」のスローガンを現実化させ、ワークライフバランスを実現していくために必要な労務の対応策になるはずです。政治家や官僚は、「リモートワーク」という働き方について、もっと現実目線で、議論をした方が良いと思うのです。
作成日:2016年8月8日 屋根裏の労務士