『持論』ではなく、「時論」が大切なこと
日本を代表する大手企業での過労死。それを受けて、ビジネスでも輝かしいキャリアがある大学の教授がインターネットのニュースサイトに下記のコメントを投稿。
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『月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない』
『自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、
残業時間など関係ない』
上記のコメントに対して、ネットが大炎上。更に、炎上の内容について、連日、ネットニュースで取り上げられます。その後、大学教授は謝罪して、コメントを削除しましたがその謝罪の内容を巡り、更なるネットの炎上。その後、教授が所属する大学側も厳格に処分すると発表。
今回の事件について世論の高まりを受けて、10月14日に東京労働局と三田労働基準監督署が大手広告会社の本社に調査に抜き打ちで調査に入りました。更に、それだけではありません。厚生労働省は、本社だけではなく、全国すべての支社に対して調査を行うという異例の対応を図るようです。
今回の事件や世論の高まりを踏まえて、子会社や関連会社にも調査が及ぶ可能性も出てきました。違反が見つかった場合、是正勧告をするほか、特に悪質なケースについては、刑事事件として書類送検することを検討しているとしています。
今回、行政がこのように厳しい対応をすることになった背景には、このような悲しい事件が起きるまで、違法状態を放置しているという行政対応への不満意見もネットの投稿で、多数あったことがあると思います。
中途半端な対応をとれば、それこそ、安倍政権への支持率にも影響が出てきます。支持率が下がれば、思い描いている政策なんて、そうそうに実施できません。今回の調査を踏まえて、すぐに、菅官房長官は記者会見で、下記のようなコメントを発表。
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「厚生労働省において、今回の立ち入り調査の結果を踏まえて
過重労働防止に向けて厳しく対応していきたい」
「政府としては、働きすぎによって
尊い命を落とすことが決してないよう、
働く人の立場に立って長時間労働の是正、
同一労働同一賃金の実現などの働き方改革をしっかり行って、
こうしたことのないように改善をしていきたい」
今回の事件は、徹底的に調査することはもとより、今後、長時間労働に対する取り締まりが、これまで以上に強化されてくるはずです。
奇しくも、遺族が記者会見をした10月7日の日は、厚生労働省が、初めて、「過労死等防止対策白書」を発表した日。白書の中で、過労死の実態や防止策の実施状況などを報告。「過労死白書」は、世界でも初の試みとして注目を集めていました。
白書の中で、国は、将来的に、過労死等をゼロとするために、次の内容について、具体的に早期目標として掲げています。
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週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下(平成32年まで)
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年次有給休暇取得率を70%以上(平成32年まで)
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メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上(平成29年まで)
過労死のようなことが起きれば、遺族への対応はもとより、企業の著しいイメージダウンになります。これまで先人たちが大切に築いてきた財産。一瞬で失うことになりかねません。事件が泥沼化してしまえば、中小企業では倒産するような事態にもなるリスクがあるのです。
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今回の問題コメントをした教授のような時代錯誤の考え方
さすがに、弊社のクライアントの中にはいませんが、経営者の方には、今の時代がどういう時代なのかについて、『持論』を主張する前に、「時論」を理解して、きちんと「現実」を直視して頂きたいです。
過労死ラインの残業時間なんて、労務の舵取りの対応の中で、守らなければならない肝心要のところです。残業時間に関する対応は、未払い残業の件など含めて、放置してはいけない労務の課題です。
社員や会社が大変な事態になってしまう前に「時代にあった対応」というものを適正に取り計らって頂きたいものです。ネットの意見の中には、今回の事件で自殺した原因に関して、100時間を超える残業ではなく、パワ・ハラが原因であるとする意見も見受けます。
下記の事件などについても、度々、論議になることがあります。
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残業時間100時間が過労死になるか否かの論議
100時間の中身がどうかについては、当然にあるものだと思います。しかし、それを言い出せば、社会全体を取り計らうための基準。そもそも設定ができないことになります。
企業の労務の対応について舵取りしていく中で、主観的な個人の経験則によるような『持論』を持ち出す余地はなく、客観的な全体を取り扱うための基準で対応をしていくこと。必要なことというより、当然のことです。
現行で、次の基準があるのですから、当該基準に基づいた労務の対応を企業組織が取り計らうのが、当然のことなのです。
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「脳疾患や心臓疾患で、発症前1カ月間に約100時間、
または発症前2~6カ月間に1カ月あたり
約80時間を超える時間外労働があった場合は
業務と発症との関連性が強い」
管理職の中には、部下を監視して、椅子に座って報告を受けているだけで、事務員でもできるような帳票をつけながら、終業時刻になっても、さっさと帰宅しないで、部下に対しては、自分の勤務時間と同じ長時間労働を強いて、それでマネジメントをしているつもりになっている人も多いものです。
生活残業のような100時間と時代遅れの徒弟関係のような状態での100時間の残業。心身の疲労状態の中身が違っていて当然のことです。今回、過労死した事件の背景や詳細について、知れば知るほど、いたたまれないに気持ちになります。
今後、今回の事件踏まえて、何らかの基準が出来る可能性が高くなりました。新しい基準が出来てきましたら、小生の『持論』と世論の「時論」についてお伝えしていきます。
作成日:2016年10月17日 屋根裏の労務士