「スペインの休日」・・・後編
そんな地域ごとにと独特な魅力があるスペイン。今回、私が最も楽しみにしていたのは次の都市です。
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バルセロナ
バルセロナは、建築家・ガウディを筆頭としたモデルニスモ建築に彩られた美しい街です。また、芸術家・ピカソ、ミロ、ダリを輩出した芸術の街でもあります。
バルセロナの街を散策していると、中世から変わらない街並みの中に、自由闊達なカタルーニャ人の気質を肌で感じることが出来ます。この自由闊達な風土により、建築家や芸術家の人たちが斬新的なアイデアを生み出してきたこと。バルセロナを歩いていると、何か直観的に理解をすることが出来ます。
今回の旅の目的であり、楽しみは下記です。
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「ガウディの美意識を自分の中に取り込むこと」
「未完の美について、理解をしておくこと」
バルセロナには、サグラダ・ファミリアを筆頭に、ガウディが、手がけた建築作品が多数あり、ガウディ建築群として世界遺産になっています。ガウディ作品の美は、ガウディの次の言葉に、集約されていると言えるでしょう。
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「形がより完璧になれば装飾は不要になる」
ガウディは、レンブラントやヴァン・ダイクといった芸術家たちを、『サロンの装飾家』と評して批判していました。ガウディが持っていた美意識のプライドは、相手がミケランジェロでもあっても例外ではありません。ガウディの美意識では、システィーナ礼拝堂ですら、単に装飾で飾り付けをした美的感覚に欠けた作品だったのです。
ガウディは、美意識へのインスピレーションを「自然」の中に見出します。生物的な建築を得意として、「自然」をモチーフにして、建築作品を数多く手がけます。ガウディには、美意識と建築構図について下記の考えがあったのです。
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「美しい形は構造的に安定している。
構造は自然から学ばなければならない」
ガウディは自然の中にこそ美しさと建築構造について最高の形があると信じていたのです。「グエル公園」は、「自然」を芸術的に建築物で表現をした代表作といえるでしょう。
また、ガウディ建築には下記の美意識で溢れています。
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曲線美
ガウディ建築には、曲線美を追求したものが多いのですが、曲線美の真骨頂と言えるのは、「カサ・ミラ」の建築でしょう。外観の波打つ曲線は地中海をイメージして作られています。一つ一つの異なるバルコニーは、鉄という固い素材を使いながら、地中海の波に漂う海藻のような、柔らかな造形を巧みにつくり出しているかの様です。
内観も天井も壁も曲線美で波打ち、まるで地中海の海底にいるような雰囲気をつくりだしています。「カサ・ミラ」の屋上は、シンプルな素材の中に曲線美を取り込んだ、ガウディの美意識を直感的に理解できる空間です。ダリの絵画の中に迷い込んだような不思議な感覚になります。
「グエル公園」、「カサ・ミラ」は、ガウディの芸術家としての一面を理解できる建築作品です。
また、ガウディは、熱心なキリスト教の信仰心をもっていました。晩年は世捨て人のようになります。何かに取り憑かれたように、「あの作品」に没頭していきます。「あの作品」とは、もちろん、下記です。
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「サグラダ・ファミリア」
「サグラダ・ファミリア」は、未完成でありながら、世界遺産になっている未完成の美しさがある建築です。最初は建築家のフランシスコ・ビリャールが無償で設計を引き受けました。しかし、意見の対立により辞任。
1883年にわずか31歳のガウディに引き継がれます。ガウディは大聖堂の総監督を引き受けた後、1926年に路面電車に跳ねられて亡くなるまでの43年間。ほとんどの時間を教会で過ごし、「サグラダ・ファミリア」の制作に人生のすべてを捧げます。
「サグラダ・ファミリア」の前に立ったとき。私は、ガウディの芸術家としての能力を遥かに超えた怖いものを感じていました。それは、ガウディの宗教家としての「信仰心」から生み出された力です。「サグラダ・ファミリア」は、芸術作品を遥かに超えたガウディの恐ろしいまでの「信仰心」が形になって表現されて、つくり出されたものでしょう。
ガウディは、「サグラダ・ファミリア」の設計図を残していません。大型模型や紐と錘を用いた実験道具を使って、都度、構造について検討していました。スペイン内戦でそれらの模型は破片となります。ガウディの構想した資料は大部分が消失。しかし、ガウディの意思と美意識を時代毎の建築家たちが引き継いで現在も建設が行われています。
かつては完成までに300年はかかると予想されていた工事。それが、IT技術の進化により、コンピュータによる3D構造解析技術と3Dプリンターによるシミュレーション検証やCNC加工機が開発され、大幅に工期が短縮され、急ピッチで工事が進んでいます。
公式発表ではガウディ没後100周年目の2026年に完成する予定。1980年代に見込まれた約300年という工期は、約144年の工期で完成する見込みになりました。
サグラダ・ファミリアには、未完成でありながら、様々な感動があります。
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ガウディの高き理想を、追求した美意識と信仰心。
ガウディの意思を、時代を超えて引き継いだ建築家たちの執念。
それらを後押しするような急速な技術革新。
私は前職が建築屋でした。現在は労務の制度策定を手掛けるコンサルタントです。だから、下記のことを理解しています。
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『完成した建築物』や『完成した人事の制度』ではなく、
「完成に向けて取り組んだプロセス」の中にこそ、
真の美しさや価値があるということ
未完の世界遺産が、どんな形で完成するのか。未完の美が、完成された美となる2026年が楽しみです。
作成日:2017年1月23日 屋根裏の労務士