「事務続きの延長戦」
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労働保険では年度更新の申告
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社会保険では算定基礎届の届け出
労働保険も社会保険も、締切期限は7月10日です。
労働保険の年度更新は、3月の給与が支給された時点で7月10日の締切日に向けて、比較的に時間がある中で、年度更新の手続きの準備に入れます。一方、社会保険の算定基礎届は、6月の給与が支給され時点で7月10日の締切日に向けて、時間的な余裕が無い中で、算定基礎届の対応をしていくことになります。
以前は、年度更新の申告期限は5月20日でした。しかし、5月20日だと役所の担当者や企業の総務担当者が、ゴールデンウィークをゆっくり休むことが出来ていませんでした。そこで、国は、年度更新の申告期限を2か月遅くして、算定基礎届の期限日と併せることにしたのです。
年度更新の期限日が2か月遅くなり、時間的に余裕が出来ました。しかし、算定基礎届は6月の給与が確定してから、提出日までに時間的な余裕がありません。そのため、年度更新の対応は、ゴールデンウィーク明けには取り掛かり、早めに対応を進めておく必要があります。
7月の時間は、算定基礎届の事務に専念できる段取りをしておくのが理想です。
例年7月10日を過ぎると、小生も事務手続から解放されます。7月の3連休明けからは、コンサルティングに専念が出来ます。しかし、今年は「事務続きの延長戦」が待っていました。下記の相談や対応依頼を、多数頂いたからです。
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「算定基礎届の定期調査」における相談や対応依頼
今年の「算定基礎届の定期調査」は、延長戦になること。実は、小生は、だいぶ前から覚悟をしていました。定期調査があっても、弊社のクライアントは、どの事業所も、概ね問題はありません。役所の担当者から説明を求められても、論理的に説明が出来る状態にしてあるからです。小生が、一定の論理の下に、しっかりとした説明が出来るようにしてあるのです。
しかし、担当者によっては、どんな展開になるのかはわかりません。調査が終わるまでは、私の方も、緊張が高まっています。特に今年は、下記の改正があってから、最初の算定基礎届の定期調査の年です。
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社会保険に加入させる『4分の3基準』の改正
平成28年10月1日より、社会保険の加入に関して、下記の新しい「4分の3基準」を設けました。
【新しい加入基準】
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「1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が、4分の3以上」
上記の基準に該当をすれば、社会保険に加入させる必要があるという明確な基準を策定したと説明していました。従前の基準は下記のような内容でした。
【従前の加入基準】
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1『1日または1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が、
おおむね4分の3以上』 - □
2『被保険者として取り扱うことが適当な場合は、
総合的に勘案し、被保険者資格の適用を判断すること』
従前の加入基準は不明確であり、企業が社会保険に加入させないことを誘発させているという意見がありました。更に、曖昧な基準であるために、分かりにくいという意見も多数ありました。そこで、厚生労働省は、他に解釈の余地がない、客観的な基準を策定したという説明がありました。上記の背景を踏まえて、策定されたのが、次の新しい加入基準です。
【新しい加入基準】
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「1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が、4分の3以上」
新しい加入基準の「および」は、両方の条件を満たしている場合、社会保険を加入させる必要があるという意味です。別の捉え方をすれば、いずれか一つに該当しているだけであれば、社会保険に加入させる必要がないことになります。
昨年、新しい加入基準が出来た時に、念のために、複数の年金事務所の担当者に何度も確認しています。この新しい加入基準は、「他に解釈の余地がない、客観的な基準」として策定されたそうです。
しかし、実際に現場で導入をして運用をしていけば、様々な解釈があり得るものです。小生も「新しい4分の3基準」について、数々の疑問が出てきたので、これまで、数々の質問を役所にさせて頂きました。今回の「算定基礎届の定期調査」。そんな数々の疑問や質問があり、小生が制度について、完全に消化していない中での最初の調査でもありました。
今回の調査の中で、事前に年金事務所に、何度も確認した「および」の解釈ですら、実際の調査の現場では、担当者によって解釈や判断が分かれていました。
1か月の所定労働日数が、4分の3未満であれば社会保険に加入させなくても良いし、そもそも加入出来ない解釈だったはずでした。しかし、1カ月の総労働時間を踏まえれば、1か月の所定労働日数が4分の3未満でも、加入させるべきだと指導してきた担当者もいました。
会社が想定している4分の3基準の理屈。担当者に丁寧に伝えていく中で、調査は何事もなく、無事に完了することが出来ました。今回の定期調査を踏まえて、小生は次のことに関して、今一度理解を深めました。
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「調査ごとは危険であるということ」
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「どんな基準であっても、制度には穴があり、
すべてのことに完全に対応した基準などは無いということ」
何より、下記のことに関して、骨身に沁みて理解を深めました。
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「会社の論理をつくり、説明できる状態にしておくことの大切さ」
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「他者に対して、説明をして理解を得ていくことの難しさ」
新しい加入基準は、「他に解釈の余地がない、客観的な基準にはなっていない」と小生は受け止めていますが、そのことに関して、認めていない担当者も多数いました。
国は、厚生年金に入る資格がありながら、国民年金に入っている人は200万人と推計しています。これまで以上に、社会保険の適正な加入指導に関して、強化していく意向があります。社会保険の加入条件に関しては、これからも引き続き、確認や相談対応が出てきそうです。
作成日:2017年7月24日 屋根裏の労務士