「最低賃金と貧困対策」
近年、格差対策の是正や貧困対策を踏まえて、毎年、最低賃金が物凄いペースで引き上げられています。民主党政権時代に下記の政策目標が掲げられました。
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最低賃金1,000円
最低賃金1,000円は、政権交代をした自民党政権下でも、一億総活躍プランの中で引き続き政策目標となっています。最低賃金は年に1回見直されて10月ごろから適用されます。今年の見直しでは全国平均で25円増の848円。10年前に比べて161円も高くなりました。
最低賃金がもっとも高い東京では、下記の金額です。
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時間給 958円
26円引き上げ
引上率2.79%
最低賃金は都道府県を経済状況で、4ランクに分けて国が目安を示します。それを基に各都道府県が金額を決めます。下記がそのAからDまでの4ランクです。
- 【Aランク 26円】
□東京、神奈川、大阪、埼玉、愛知、千葉
- 【Bランク 25円】
□京都、兵庫、静岡、三重、広島、滋賀、
栃木、茨城、富山、長野、山梨 - 【Cランク 24円】
□北海道、岐阜、福岡、奈良、群馬、石川、岡山、福井、
新潟、和歌山、山口、宮城、香川、徳島 - 【Dランク 22円】
□福島、島根、山形、愛媛、青森、岩手、秋田、
鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、
鹿児島、宮崎、沖縄
例年、最高は東京で、最低は沖縄です。今年も最高は東京で958円。今年は、沖縄のほか、鹿児島、宮崎、大分、熊本、長崎、佐賀、高知の8県で737円。
その差で10年前は121円だったのが、今は221円まで広がりました。1日8時間の週5勤務で、年間で約46万円の差になります。
地方からは、最低賃金の格差は地方と中央との格差であり、東京一極集中を誘引する原因になっているとの意見もあります。新潟県では関東県への人口流失の懸念から、国の目安よりも1円上乗せして上げることになりました。
以前、フランスに拠点を持つ役員から聞いたのですが、フランスでは最低賃金が全国一律になっているそうです。フランスの同一労働同一賃金の背景には、最低賃金の全国一律金額などもあるのかもしれません。
最低賃金については、経済学でも様々な考察や研究がされています。経済学者により、様々な分析がなされているのです。
最低賃金の地域格差について、見かけの金額差は開いていても、物価や家賃を考慮した実質の格差を考慮すれば、問題になるような地域格差はないという考え方もあります。また、経済学者の多くの方は、下記の考え方をもっています。
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「最低賃金を引き上げても貧困対策にはならない」
貧困対策を考えたとき、一般的には、最低賃金を上げれば最低レベルの賃金で働いている方の所得が増えるので、貧困対策に効果的だと考えられます。
しかし、多くの経済学者の考えは上記と異なる考え方なのです。経済学者は、最低賃金を引き上げると、経営者はその時間給に見合った人しか雇わなくなり、生産性や能力が低い人は雇わなくなると考えているのです。最低賃金を引き上げることによって、結果的に生産性や能力が低い人たちが失業してしまうことを懸念しているのです。
貧困層への対策として講じたはずの最低賃金の引き上げ。貧困層の失業者を増やすことになるパラドックスに陥るのです。これまで、経済学では、最低賃金の引き上げが、貧困層の失業者を生み出し、更なる貧困に陥れさせるというのが定説でした。
しかし、上記の定説を覆す論文が発表されます。アラン・クルーガーとデービッド・カードによる最低賃金の引き上げと雇用状況の市場考察の論文です。ニュージャージー州とペンシルベニア州で最低賃金の引き上げと雇用状況について次の傾向があることを見つけたのです。
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最低賃金を引き上げた方が雇用の数が増える傾向
最低賃金を20%上げたニュージャージー州は、最低賃金を引き上げなかったペンシルベニア州に比べてファーストフード店の店員が平均で2.6人増加したのです。
この研究の結果、最低賃金の引き上げは市場にプラスの効果であることが判明。最低賃金の引き上げで、職が失われるという証拠は、見られなかったのです。この隣接州での研究は、結果だけを見れば、上記の様な分析もできると思います。
しかし、最低賃金の引き上げが貧困層の失業をまねくという従来からの意見をもっている経済学者は次の反論をあげています。
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最低賃金の引き上げを理由に商品の値上げをすることが出来たのではないか。
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何らかの生産性向上をすることが出来たのではないか。
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賃金が上がったことにより、雇用の定着化が進んだのではないか。
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隣接州からの人口流入が起こり、市場が大きくなったのではないか。
現在まで、最低賃金と貧困層の失業に関して、正解というのは出ていません。経済学者の多くは、従来通りの定説である最低賃金が貧困層の失業を生み出すという懸念をもっているようです。
実は、最低賃金の引き上げで一番メリットを得ているのは貧困層ではなく、中間層であるという分析もあります。格差社会が問題になっていますが、次のようなデータがあるからです。
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世帯主で年収が300万円未満の人・・・・約15%
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世帯所得(被世帯主)年収500万円以上・・・・約50%
最低賃金に近い賃金で働いている方の半分は主婦のパートやアルバイトの学生が多いのです。比較的にしっかりとした収入がある世帯で、補助的に働いているケースがほとんどなのです。最低賃金が上がることは、この中間層の所得が増えることになり、中間層の世帯が一番メリットを甘受できる結果となっているのです。
やはり、政策というのは、これをしたら問題解決という単純なことではないようです。また、最低賃金を引き上げる政策は、貧困対策として政治的に受け入れられやすい傾向もあります。
私は、最低賃金の引き上げは、生活保護との金額の関係から、労働へのモチベーションを上げさせるために一定限のところまでは上げた方が良いとも考えています。しかし、多くの経済学者と同様に、最低賃金を上げた場合、貧困層の失業をまねき、更なる貧困状態に陥ると考えています。
貧困対策は、賃金を支給することだけではありません。働く人のスキルを上げさせ、仕事の楽しさを教えて、その仕事のプロを育てることだと考えています。
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個が強くなること
上記が理想ですが、現実はそんなに簡単ではありません。
それでも、貧困者に自立できるような存在になって頂くことが目標だと思います。そのためには、人望のある優秀な経営者の存在。会社が人材を育てるような仕組みづくりが大切だと考えています。
作成日:2017年10月2日 屋根裏の労務士