コラム Column

「不合理な格差についての判断!」

正社員と非正規社員の賃金格差を巡る注目の裁判について、6月1日に最高裁が2件の訴訟の判決を出しました。

今後の企業における人事制度の策定や運用について重要な判断ベースとなる判決が出てきました。この裁判における最高裁の論点は下記です。

  • 労働契約法20条が禁じる
    「不合理な格差」についての判断

労働契約法20条は、非正規社員が受ける「不合理な格差」を解消させるために、4年前の2013年4月に施行された改正労働契約法に盛り込まれた内容です。「不合理な格差」にあたるか否かは下記の3つから判断されることになります。

  1. 職務の内容や責任の程度
  2. 配置の変更の範囲
  3. その他の事情

4年前に改正労働契約法施行されてから、全国で裁判が起きており、「不合理な格差」の解釈を巡り、個別事案ごとに様々な判断がなされていました。最高裁は、労働契約法20条の違法性を検討する際に下記の判断基準を示しました。

  • 「賃金総額を比較するだけでなく、
    賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」

上記の判断を示したうえで、下記の判決を出しました。

  • 契約社員の手当支給有無における待遇格差は違法

  • 『定年再雇用後』と「定年前」の格差は容認

契約社員が、正社員に支払われている各種手当の支給を求めた訴訟。判決は、通勤手当や皆勤手当など5つの手当の格差を「不合理」だと判断。また、住宅手当の格差は、2審に続き「不合理とはいえない」と判断。その理由として下記の考えを示しました。

  • 「正社員は転居を伴う配転が予定されており、
    契約社員と比べて住宅にかかる費用が多額となる」

昨今の正規社員と非正規社員との「不合理な格差」の是正の動きを踏まえれば、想定内の妥当な判決が出たというところでしょう。今回、小生が注目しており、危惧していたのは、もう一つの下記の裁判の最高裁の判決です。

  • 『定年再雇用後』と「定年前」の格差についての判決

『定年再雇用後』と「定年前」の格差に関しては全国で裁判が起きていましが、そのほとんどが格差を容認した判決。つまり、賃金減額の企業側の主張を認めた判決でした。しかし、今年の3月末に『定年再雇用後』の賃金減額に対して会社側の不法行為とした判決が出てきたのです。

60歳当時と比べて25%の減額となる労働条件を巡り争われた裁判です。2審の高裁判決は、下記の判決が出されたのです。

  • 65歳までの雇用の確保を企業に義務づけた
    高年齢者雇用安定法の趣旨に沿えば、
    「定年前」と『定年再雇用後』の労働条件に
    不合理な相違が生じることは許されない。

ちなみに、この裁判は63歳の女性の経理担当者が起こした裁判です。63歳の女性ですので、既に報酬比例部分の年金も支給されています。年金が支給されている者であっても、賃金減額に会社の違法性を認めたのです。

この判決は、今後の再雇用の労働条件に関して社会的な影響を与えると報道されていました。そのため、『定年再雇用後』と「定年前」の格差に関して最高裁の判決が出てくるのを小生も注目していたのです。今回の最高裁のポイントを整理すると下記になります。

  • 正社員と非正規社員との賃金格差が不合理かどうかは
    賃金項目ごとに個別に判断すべき

  • 再雇用者は退職まで賃金が支払われ、
    退職金が支給されていることや
    老齢厚生年金の支給も予定されており、
    正社員との賃金格差は事実上容認されている

  • 賃金格差が不合理だとしても、正社員と同じ賃金が
    そのまま非正規社員に適用されるわけではない

今回の最高裁の「不合理な格差」の判断。次の2種類の非正規社員の「不合理な格差」について、同じ日に判断を示したところが、最高裁の上手いやり方だったと思います。

  • 「定年退職前」の非正規社員と『定年再雇用後』の非正規社員

今回の最高裁の判決により、「定年退職前」の非正規社員について同一労働同一賃金の考え方の下に、「不合理な格差」があってはならないことが明確になりました。ただし、賃金格差が不合理だとしても、正社員と同じ賃金がそのまま非正規社員に適用されるわけではないことも明確になったのです。

一方で、『定年再雇用後』の非正規社員について60歳前の高額な正規社員の賃金が再雇用により『定年再雇用後』に減額されることは社会的に容認されており、企業側の裁量として概ね認められることが明確になったのです。

今回の最高裁の判決の内容にはありませんでしたが、個人的には最高裁は下記の考えが背景にあったような気がしています。

  • 「定年退職前」の高額な賃金が、『定年再雇用後』に
    減額されることが不当だという判決を出したら
    そのしわ寄せは、社会的な弱者の若年層にいくこと

少子高齢化で世代間の格差が歴然とある日本社会。一律に『定年再雇用後』の賃金を既得権として考えて、『定年再雇用後』の賃金まで司法のルールで守ることにより、若年層を犠牲にすることは、これ以上出来ないと最高裁は配慮したような気がしています。

結局、企業の人件費である原資の配分を世代間、正規・非正規の雇用形態を含めて、どのように配分していかといくことになるのです。

これまで、雇用形態という実質的な身分制度の下に、格差はあって当たり前という常識感がありました。今回の判例は、そんな常識感に一石を投じて社会に意識改革を図るような内容になったと思います。

今回の最高裁の判例は、5月31日に衆議院を通過した働き方関連法案に間違いなく影響を与えるものになるでしょう。非正規社員の待遇改善を図る同一労働同一賃金は関連法案の一つです。

労働契約法の改正案などが含まれており、今国会で成立すれば、大企業では2020年4月から中小企業では2021年4月から適用されることになります。今回の最高裁の判例を踏まえて、今後、非正規社員だけでなく、定年再雇用者の労働条件についてもガイドラインで指針が出される可能性が出てきました。

最高裁では、『定年再雇用後』の賃金の減額は容認されているという見解が出てきました。しかし、現在多くの企業で行われている『定年再雇用後』に、一律25万から20万円ぐらいまで崖の様に賃金が減額される対応に関して見直しをさせるガイドラインも出てくる可能性もあります。

日本郵政グループでは、正規社員にだけに支給していた住宅手当を10年の経過措置を設けて廃止にする対応を決めました。

今回の最高裁の判例は、法案を先取りしてガイドラインの策定に向けて指針を示したものになったはずです。企業側も、同一労働同一賃金について、対応が求められてくることになります。

小生の方も、法案の適用となる2020年を目指して何か、エンジンがかかってきました。またまた、難しい課題に取り組んでいくことになりそうです。

作成日:2018年6月4日 屋根裏の労務士

お問い合わせ

電話番号 03-3988-1771 受付時間9:00~19:00(土日祝祭日を除く)

お問い合わせ

コラム

  • 採用情報