コロナの対応 その13 「雇用調整助成金 その5」
雇用調整助成金の対応だけではありません。雇用調整助成金の支給を念頭に入れて、休業手当を支給していくにあたり、法律の要件を満たす対応をしていくために、事務員から悲鳴が出ています。
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「悲鳴が出たということ」は、休業手当について、正しい理解が出来ているということです。
労働基準法第12条に定められている休業手当を支給する要件で対応するのは膨大な事務コストが発生するのです。
昨日、弊社の方でメールをさせて頂いた役所の資料が法的な要件を満たした正しい平均賃金の計算方法です。当たり前ですが、役所のパンフレットに記載されている内容ですのでこの資料が正しい法律情報です。
平時における通常の労務の対応で、平均賃金を算出して対応することは、実は、滅多にない対応なのです。今回のような戦時で膨大な人数について、計算対応することは通常は無いのです。
休業手当を支給する要件に関して再度、ご確認の意味を含めてご説明致します。
<労働基準法第26条 休業手当>
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使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
<労働基準法第12条 平均賃金(原則)>
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平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3カ月間に、その労働者に対し支払われた当該賃金の総額を、その期間の「総日数」で除した金額をいいます。
<労働基準法第12条 平均賃金(最低保障)>
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賃金の一部または全部が日給制、時間給制又は出来高制の場合は、平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3カ月間にその労働者に対し支払われた当該賃金の総額を、その期間の「労働日数」で除した金額の60%が最低保障となります。
3カ月間に遡り、2つの計算方法で計算して金額の高い方が平均賃金となるのです。つまり、休業手当の60%の賃金を支給する対応とは、給与規程に記載している欠勤控除や日割りで支給する計算方法とは異なる計算方法なのです。
概要イメージでは下記になります。
<平均賃金のイメージ>
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1 3か月間の賃金の総額 ÷ 3か月間の歴日数
2 (3か月間の賃金の総額 ÷ 3か月間の労働日数)×60%
上記で計算された金額のうち高い金額が平均賃金になるのです。
弊社のクライアントは、制度が未整備であっても今回の事態で取り急ぎテレワークを導入して、賃金については100%を支給する対応が多いです。
コロナの津波を凌ぐためにテレワークが出来る業務は先にテレワークで動いて頂いたのです。現時点では、テレワークをしているため、基本的には雇用調整助成金を使わない方針が多いです。
それでも、接客業や工場労働ではテレワークが出来ないために休業をさせて雇用調整助成金を検討しているケースも少なくありません。
100%の賃金を支給していれば、助成率も高く、平均賃金についてもクリアできている見込みです。単純に契約内容の60%の賃金では労働基準法で定める対応ではないため、雇用調整助成金が出ない展開が高くなります。
そのため、事務コストは発生しても60%で対応をしていく場合、法律で求められている休業手当について限られた時間の中で計算していく必要があります。
ちなみに、月給制の正社員で残業手当の支給がある方は、1と2の両方について複合させたうえで、最低保障額について、確認計算して高い方の金額を平均賃金にする対応になります。
休業補償給付を申請する際に、賃金台帳などの必要書類を添付します。しかし、労働基準監督署の担当官も申請してくる企業の給与制度をすべてきちんと分かっているわけではありません。そのため、申請されてきた平均賃金でスルーされてしまうこともあるのです。
今回の雇用調整助成金では、スルーされるか否かは定かではありません。しかし、法に定めていない対応であれば指摘をうければ、不支給になってしまうでしょう。
弊社のクライアントではよほど拗れた展開にならなければ解雇はありません。そのため、平均賃金を使う解雇予告手当は発生しないのです。法的な減給の制裁も、僅かな賃金額しか控除できないため、現実的には、滅多に、発動させることがありません。
解雇予告手当を支給する対応になった場合、拗れに拗れており、小生が入り込んでいる状況です。これまで、平均賃金の計算で厳格に計算して確認しながら対応をしていたのです。
平時でも手間な作業ですが、数が少ないので対応が可能だったのです。コロナの戦時の対応では、平均賃金を計算するだけで事務員から悲鳴が出るような状況。
その他にも、勤務期間が3カ月に満たない場合の対応など平均賃金は様々な例外が内在されており、イレギラーな場合は、局長判断となっているのです。
雇用調整助成金が、利用されていないのは、制度自体が複雑なこともあります。そもそも、助成金の前提である休業手当の支給の段階で、複雑な対応になっているのです。
内部留保が潤沢にあり、対応できる人材がいてキャッシュで時間を買える企業でないと、難しい状況になっているのです。恐らく、政府や厚生労働省の方はどこに問題があるのかについて、気が付いていないと思います。
それでも、それぞれに限られた条件の中で出来るところから対応していくしかありません。東京労働局の資料がポイントを上手く説明しています。
世の中、法律や制度は綺麗に整備されていません。整備されていると思っている対応でも複雑になっており、理解できなかったり現実的には対応困難なものが多いのです。経営者が入り、事務員に指示を出して下さい。
作成日:2020年4月23日 屋根裏の労務士