コロナの対応 その15 「平均賃金 その2」
複雑な制度を理解していくためには下記のようにして対応していく必要があります。
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全体を捉えてから、一つ一つの内容を理解して
理解のベースに、理解を積み重ねていく対応。 - □
一つ一つの事象について繋がりについて、
頭をフル回転させて、意識を集中させること。
複雑な制度や難しい制度というのは、それぞれの事象が繋がって制度が策定されているのです。そのため、パワーポイント1枚で要点をまとめて、理解することなどは出来ないようなレベルの複雑さの難易度になっているのです。
基本的な内容でも精密に繋がっています。部分的なことを理解して、その繋がりを理解できないと
全体を理解することが出来ないようになっているのです。基本的な対応を理解したうえで、「例外的な細かい対応」について、処理をして対応するのです。
今回は、「例外的な細かい対応」についてご説明致します。まず、平均賃金の基本的な対応について再度、確認します。
<労働基準法第12条 平均賃金(原則)>
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平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3カ月間に
その労働者に対し支払われた当該賃金の総額を、
その期間の「総日数」で除した金額をいいます。
<労働基準法第12条 平均賃金(最低保障)>
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賃金の一部または全部が日給制、時間給制又は出来高制の場合は、
平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3カ月間に
その労働者に対し支払われた当該賃金の総額を、
その期間の「労働日数」で除した金額の60%が最低保障となります。
3カ月間に遡り、2つの計算方法で計算して、金額の高い方が平均賃金となるのです。下記の考え方も、再度、確認します。
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平均賃金は「1日単位の賃金の概念」であること
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平均賃金に「1時間あたりの賃金の概念はない」こと
上記の平均賃金の理解が出来たら、下記の対応に関して、疑問が出てきます。
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平均賃金を算定すべき「事由の発生した日以前3カ月間」
に満たない者の計算方法はどのようになっているのか?
上記について、労働基準法第12 条第 6項で、下記のように定められています。
<雇入れ後3か月に満たない場合>
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雇入れ後3か月未満の労働者の
平均賃金を算定すべき事由が発生した場合は、
「雇入れ後の期間」と「その期間中の賃金」とで
平均賃金を算出する。
上記の具体例として、入社して2カ月半などの場合では賃金の締め日が2回であれば2回の賃金支給日について、期間とその期間の計算するのです。1回であれば、1回です。労働基準法第12条第2項に下記の定めがあります。
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前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、
直前の賃金締切日から起算する。
3カ月期間がある場合での基本的な対応ケースですが2カ月半のケースや1カ月半のケースでも同じ解釈で対応をして問題がないと判断します。
<雇入れ後3か月に満たない場合>について、具体的な計算方法について、下記の通達があります。
<完全月給者>
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平均賃金の算定期間が一賃金算定期間に満たないときの
いわゆる完全月給者の平均賃金は、
月給を30で除した金額が平均賃金となる
(昭和45.05.14基発(旧労働省労働基準局長名通達)第375号)。
完全月給者を4月に入社させて休業させた者などです。月給を30で割り、出勤予定日について、平均賃金を出す計算以上が休業手当になります。
<算定期間が2週間未満の者>
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平均賃金の算定期間が2週間未満の労働者であって、
①満稼動の者は、当該労働者に対して
支払われた賃金の総額を
その期間の総暦日数で除した金額に
7分の6を乗じた金額
②通常の労働者と著しく異なる労働に対する
賃金額となる労働者は、通常の労働に対する賃金額に
修正した金額が平均賃金となる
(昭和45.05.14基発(旧労働省労働基準局長名通達)第375号)。
<定年で再雇用された者>
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定年退職後再雇用され再雇用後
3か月に満たない労働者の平均賃金は、
退職前の期間をも通算して算定する
(昭和45.01.22基収(旧労働省労働基準局長が疑義に応えて発する通達)第4464号)。
上記のほかにも、日々雇用される者などについて、通達などあります。端数処理の対応などについて、当たり前ですが、迷った場合などは、労働者に有利になるように計算すれば労働基準法上の休業手当になります。平均賃金での対応で「試みの使用期間」という表現が出てきます。就業規則で定めている試用期間ではありません。14日間の暦日という意味です。
給与計算や労務管理のソフトウエアで、平均賃金を計算できる機能があるソフトもあります。
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労務管理の対応は、ソフトウエア泣かせなのが実情。
大手のソフト会社でもクレームが多いのが実情なのです。保守対応のエンジニアは電話対応に入る期間はノイローゼになっているのです。弥生ですら、得意分野の零細企業以外は撤退している状況なのです。
法律に例外が多いため、完全に読み込ませることは、事実上、出来ないのです。また、ソフトウエア会社が提携している社労士が法律制度を間違えて理解しているため、ソフトの内容自体から、間違えていることも少なくないのです。
法律で定めていても世の中に流通しているソフトウエアがそれに対応が出来ていないため、役所の方も管轄の判断として、認めている対応ケースも多いのです。
ソフトウエアでは、基本的な対応までしか出来ません。また、そもそもの設定を法律や取り扱い説明書に則して企業の給与計算の担当者が正確に入力を出来ていないことも多いのが実態なのです。そのため、アナログで対応しないと正確には反応が出来ません。
平均賃金の計算は、普段、あまり使わない機能のため、バグやエラーが発生している状況も起きていると報告を受けています。
弊社のIT企業でも、給与計算について、ソフトウエアだけでは正確に対応できないため、自社で勤怠管理のシステムを組んだうえでアナログ対応の読み合せをしているケースが多いのです。
弊社のクライアントには、IT企業が多数あります。情報処理のプロであるIT企業の方が、ITの脆弱性をよく分かっております。そのため、ソフトウエア任せにはせず、アナログ対応の必要性を理解して、日々の労務管理の対応が出来ているのです。
平均賃金の理解を醸成させて、労働基準法第26条の規定(平均6割以上)に違反していないように対応して下さい。
ご存知のこととは思いますが、現在、弊社は給与計算業務を1社も請けておりません。以前は、危険さを分からずに、請けて対応していましたが、給与計算業務も儲かるビジネスではありません。
弊社のクライアントは自社対応をしているケースが多く、アウトソーシングしていても、基本的な集計作業は自社作業です。労働者を大量に雇って、ルーチン化させて、処理だけをする業務です。
実際に、自分でも駆け出しの頃は給与計算の実務処理をしていました。企業ごとのマニュアルを作成して、分業化させて、月額変更が起きないように工夫をして作業の工程管理と作業指示をしていたので、給与計算の大変さと危険さも骨身に沁みて、理解をしています。
作成日:2020年4月25日 屋根裏の労務士