「同一労働同一賃金を巡る最高裁判決」・・・後編
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「賞与と退職金の支給・不支給」を巡る
大阪医科薬科大訴訟/メトロコマース訴訟(10月13日)
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「5つの手当・休暇の支給・不支給」を巡る
日本郵便訴訟(10月15日)
前回のメルマガでは、「賞与と退職金の支給・不支給」を巡る同一労働同一賃金に関して考察しました。今回のメルマガでは、「5つの手当・休暇の支給・不支給」を巡る同一労働同一賃金」に関して考察していきます。
日本郵便の正社員と契約社員との待遇格差について、最高裁は、契約社員に扶養手当や夏期冬期休暇などが与えられないことについて、「不合理な格差」に当たると判断。日本郵便の非正規社員は約18万5千人。日本郵政グループ全体の非正規率は47.3%。
雇用者の約半分が非正規社員ということになります。非正規社員のうち、男性が37.3%、女性が47.3%。日本郵便も女性の非正規率が高い傾向にあります。日本郵便は判決を受けて、下記のコメントを出した。
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「速やかに労使交渉を進め、制度改正に取り組む」
最高裁で、争点になったのは下記の手当です。
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扶養手当、年末年始勤務手当、祝日手当
夏期・冬期休暇、有給病気休暇
最高裁は退職金と賞与を巡る13日の別件訴訟では、正規と非正規で業務内容や責任が異なることを理由に、格差は不合理ではないと判断。
退職金や賞与は支給目的が多様で複雑なことも、判断の分かれ目になったと思われます。一方、名目が明確な手当・休暇については、「不合理な格差」に当たると判断。
今回の5つの手当・休暇の支給・不支給を巡る判決。2年前に出されたハマキョウレックス事件・長澤運輸事件で、既に、最高裁の判決の考え方は概ね示されていました。
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手当の支給名目や対価関係が明確な場合、
「不合理な格差」に当たると判断され得る考え方。
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労働条件の相違は全体として
不合理性を判断するのではなく、
個別の項目ごとに判断すべきもの。
そのため、今回の最高裁の判決は、概ね予想されていた通りの判決です。日本郵政が最高裁までの争いになったのは、下記の論点についてのことだったと察します。
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「夏期・冬期休暇」と「有給病気休暇の休暇」について
期間を定めるという観点に立てば、「夏期・冬期休暇」と「有給病気休暇の休暇」に関しては馴染まない労働条件だとも捉えることも出来るからです。ガイドラインでは、福利厚生の内容の中で病気休職に関して下記のように説明しています。
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ガイドラインの病気休職
短時間労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、
通常の労働者と同一の病気休職の取得を
認めなければならない。
また、有期雇用労働者にも、
労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、
病気休職の取得を認めなければならない。
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ガイドラインの(問題とならない例)
A社においては、労働契約の期間が
1年である有期雇用労働者であるXについて、
病気休職の期間は労働契約の期間が
終了する日までとしている。
「ガイドラインの概要」では、病気休職については、「無期雇用の短時間労働者」には正社員と同一の有期雇用労働者にも労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与を行わなければならないと示しています。一方で、『ガイドライン』では、反復継続する労働契約の前提で示されていないかもしれませんが、(問題とならない例)で例示しているのです。
日本郵政の最高裁でも、下記のような考え方が示されています。
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傷病休暇の日数に差を設けることや、その後の休職制度の有無について、差を設けることについては、不合理とは判断できなとされていること
日本郵政では、休職前の休暇制度について、正社員に対して勤続10年未満の場合90日、勤続10年以上の場合180日までの有給の病気休暇を付与。一方、時給制契約社員に対しては10日の無給の病気休暇を認めるのみでした。
日本郵便の事件では、「傷病休暇中の賃金支払いの有無」が「不合理な格差」と判断されました。一方で、13日判決の大阪医科薬科大学事件では、休職前の私傷病欠勤期間中の賃金支払いの有無について「不合理な格差」に当たらないと判断されているのです。
大阪医科薬科大学事件では、主として、「賞与と退職金の支給・不支給」を巡る最高裁の判決として報じられています。しかし、当該最高裁は、「傷病休暇中の賃金支払いの有無」についても、争われており、「不合理な格差」には当たらないと判断されているのです。
日本郵便の事件では、有期契約が反復継続して更新されていました。短期に限った雇用とは言い難かったため、休暇中の賃金を保障することで雇用を維持・確保するという制度趣旨が非正規にも当てはまるものとされています。
一方で、大阪医科薬科大学の事件では、原告となった者は2年しか働いておらず、その後休職に至っており、在籍期間としても3年ほどでした。正規登用制度もあることを踏まえれば、有期雇用は長期間の雇用を前提としたものとは言い難く、傷病欠勤期間中の賃金を保障することで雇用の維持・確保を図るという制度趣旨は有期雇用には当てはまらず、支給の有無に差があったとしても「不合理な格差」とは言えないと判断されています。
不確実なマーケットの各種事情を踏まえて正規社員でもあまり基本給の昇給が見込めない現実があります。そのため、子育て支援の観点から家族手当や扶養手当などを新たに設けたり、対象家族を増やしたり、当該手当の金額を増やす取り扱いも増えていました。
今後も給与制度に関しては、反復継続する契約社員に関する取り扱いを含めて、要議論をして取り進めていく必要があります。
今回の判決はあくまでも個別に日本郵便に即したもので、企業の手当一般についての判断ではありません。しかし、今後の政府の「同一労働同一賃金」の運用に一定の影響を与える可能性もあります。
今回の最高裁の判決を踏まえてガイドライン自体が曖昧で判断が出来ないとの意見も見受けます。しかし、そもそも、同一労働同一賃金への取り組みに関して、安倍元総理自らが、難しいけれど取り組んでいくべきと、問題はあっても前進していくと述べて始まりました。
ガイドラインの概要には下記のことが説明されています。
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このガイドラインに記載がない
退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、
具体例に該当しない場合についても、
不合理な待遇差の解消等が求められる。
このため、各社の労使により、個別具体の事情に応じて
待遇の体系について議論していくことが望まれる。
そもそも、「ガイドラインの構造」という説明で、原則となる考え方の基本的な考え方を示して、具体例(問題とならない例)、具体例(問題になる例)で説明したうえで、下記のことを示しているのです。
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裁判で争い得る法律整備
お上も、何でも分かっているわけではなく、走りながら対応していくということです。『わかりやすい基準』があれば理想的ですが、手続きをしているわけではありません。事前に正解が用意されてはいないのです。
個人的には、最高裁は賞与・退職金と手当については、一定の方向性を示して綺麗に整備しながら、敢えて2つの訴訟で別の判断をして、画一的な対応ではなく、個別化させて複雑化させるようにしたような気がしています。
同一労働同一賃金の対応は、これから走りながらの対応になり、個別的な高度な労務の問題で要注意をしながら対処していくテーマです。
作成日:2020年10月26日 屋根裏の労務士